廃用症候群に対する動作能力向上アルゴリズム 起き上がり 立ち上がり 歩行を体系化する評価と介入
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月1回の理学療法セミナー。社内外の医療・介護従事者の学びの場として公開しています。
今回のセミナー情報
| 講義タイトル | 廃用症候群に対する動作能力向上アルゴリズム |
| 講師 | 理学療法士 Mr.T |
| 開催形式 | WEBセミナー |
講義目次
講義内容
① 廃用症候群における動作難易度の階層構造 動作の負荷を決める3つの要素(重力・支持基底面・可動性)
廃用が進んだ対象者では、どの動作がどれくらい難しいのかが直感だけでは分かりにくい。動作難易度を構造的に整理しておくことで、評価と治療の方向性がぶれにくくなる。
◆ 動作難易度を決める3つの要素
・重力条件 寝位→座位→立位→歩行の順に、抗重力筋への要求レベルが上がる。特に座位保持は見た目より高負荷で、体幹・頸部の協調性が弱いとすぐ破綻する。
・支持基底面 支持面が広いほど安定し、狭いほど難易度が上がる。足が床につかない座位や、歩行器なし立位などは支持基底面が縮小し、一気に不安定になる。
・可動性 股関節や足関節、胸郭の可動域制限は、代償運動を増やし、動作の協調性を乱す。ROMは「そもそもできるかどうか」を決める入口になる。
◆ 評価の視点
動作を「できる/できない」で見るのではなく、どの要素が難易度を押し上げているかを見極める。
・重力に対する弱さ 抗重力方向に姿勢を保てないのかどうかを確認する。
・支持基底面の変化 支持面が広い条件では保てるが、少し狭くした途端に姿勢が崩れないかを見る。
・ROMと代償 関節可動域の制限により、どのような代償運動が生じているかを観察する。
◆ 介入の考え方
・低負荷からの成功体験 側臥位や支持の多い座位など、難易度の低い姿勢でまず成功体験を作る。
・支持基底面の段階的縮小 慣れてきたら、台の高さや足位置を調整しながら、少しずつ支持基底面を狭くしていく。
・抗重力負荷の調整 座位→立位→歩行の順に重力負荷を上げ、崩れにくいラインを探っていく。
動作難易度は「重力・支持基底面・可動性」の3軸で評価し、どこから介入するかを明確にする。
※資料:座位時間と死亡率の比較グラフ
② 臨床推論としてのアルゴリズム思考の導入 アルゴリズムが高齢者リハに必要な理由
高齢者リハでは、病態、可動域、筋力、バランス、環境要因など、複数の問題が同時に絡み合う。その中で「なんとなくの経験則」だけで判断すると、担当者ごとに方針がぶれやすい。
◆ アルゴリズムとは何か
・一定の手順 問題解決のための手順や思考プロセスを、誰が使っても同じ結論にたどり着けるように示したもの。
・判断の道筋 「この条件なら次はこれを見る」といった分岐を整理し、臨床推論を見える化する役割を持つ。
◆ 高齢者リハにおけるメリット
・再現性の確保 スタッフが変わっても、評価と介入の方針が大きく変わらない。
・優先順位の明確化 ROM・筋力・体幹安定性・バランスのどこから手をつけるのかが整理される。
・患者説明のしやすさ 「このステップをクリアしたら次はここを目指します」と伝えやすくなり、納得感につながる。
◆ 動作アルゴリズムへの応用
・動作連鎖の分解 寝返り→起き上がり→座位→立ち上がり→歩行を、一連のアルゴリズムとして整理する。
・ボトルネックの特定 どのステップで止まっているかが明確になり、対象者ごとの「今やるべきこと」がはっきりする。
アルゴリズムは、高齢者リハにおける臨床推論の「地図」として機能し、判断の質と一貫性を高める。
③ 動作獲得に必要な運動学的要素の分解 ROM・筋力・協調性・バランスの4本柱
動作がうまくできない時、その理由は1つではないことが多い。可動域、筋力、バランス、協調性などの要素を分解して考えることで、ボトルネックが見えやすくなる。
◆ 運動学的要素の4本柱
・可動域(ROM) 股関節・膝・足関節、胸郭などの制限は、立ち上がりや歩行、体幹回旋などの動作パターンに直結して影響する。
・筋力 大殿筋・大腿四頭筋・下腿三頭筋などの抗重力筋や、体幹屈曲・伸展筋群の弱さは、「できても続かない」「最後まで持ち上げられない」という形で現れる。
・バランス 支持基底面の変化や重心移動に対して、姿勢を保てるかどうか。恐怖心から動作そのものをためらうケースも含まれる。
・協調性 ROMと筋力があっても、必要なタイミングで必要な筋が働かないと動作はぎこちなくなる。代償運動の多さは協調性低下のサインになる。
◆ 評価と介入への落とし込み
・どの要素から崩れているかを見る まずROM、それが問題なければ筋力、その次にバランスと協調性、といった順番でチェックしていく。
・要素ごとの目標設定 例:ROM改善が優先なら「◯度まで屈曲できる」、筋力なら「◯回立ち上がりを維持できる」など、要素ごとに具体的な目標を決める。
動作を「ROM・筋力・バランス・協調性」に分解して評価することで、最短ルートで動作獲得につなげられる。
※資料:要介護度別の原因割合グラフ
④ 寝返り動作の分節化による評価プロトコル 寝返りを3相に分けて理解する
寝返りは「できる/できない」だけで評価すると情報が粗くなりやすい。3つの相に分けて観察することで、どこで止まり、何が足りないのかが明確になる。
◆ 第1相:頸部回旋
・小さなきっかけ 頸部をわずかに回旋させることで、体幹前面の筋緊張を高め、上部体幹の回旋準備をつくる。
・評価ポイント 頸部可動域の制限がないか、回旋時に体幹が一塊で動いてしまっていないかを確認する。
◆ 第2相:上部体幹の回旋
・肩甲帯の役割 上肢のリーチと肩甲骨前方突出によって、重心が寝返り方向に移動する。外腹斜筋・内腹斜筋の協調した活動が必要になる。
・下部体幹の固定 上部体幹を回旋させるためには、下部体幹が床に固定されることが条件となる。
◆ 第3相:下部体幹の回旋〜側臥位
・役割の交代 第3相では、上部体幹が固定役となり、下部体幹が回旋を開始する。股関節屈曲で支持基底面を広げ、側臥位の安定性を高める。
・使用筋 体幹筋、腸腰筋、内転筋群、殿筋群などが協調して働く。
寝返りを「頸部→上部体幹→下部体幹」の3相で評価することで、どの段階でつまずいているかが明確になり、介入が絞り込める。
※資料:寝返り第1〜3相の図解
⑤ 起き上がり動作の第一層(肘支持)評価と治療戦略 “肘支持”ができるかが起き上がり成功の分岐点
起き上がりは、一気に完成形を目指すよりも、まず第一層である「肘支持」が安定するかどうかを確認することが重要になる。このフェーズの安定が、後続フェーズの土台になる。
◆ 第一層で見るべきポイント
・体幹屈曲の可否 頸部・胸郭・体幹が十分に屈曲できているか。胸郭の硬さがあると、起き上がりの動き出しでつまずきやすい。
・股関節屈曲 股関節が屈曲できずに骨盤後傾が強いと、体幹を前方へ運びにくくなる。
・肘荷重の安定 肘を支点に体を持ち上げ、一定時間保持できるかどうかを評価する。
◆ 介入のポイント
・準備運動としての頸部・胸郭誘導 軽い頸部回旋や胸郭モビライゼーションで、体幹屈曲しやすい状態をつくる。
・斜め方向のリーチ 45〜60°方向へリーチさせながら肘支持を促すと、体幹回旋と前方移動が一緒に引き出されやすい。
・介助でのキュー 体幹や骨盤を軽く支えながら、「ここに乗せていきましょう」と言語・触覚キューを組み合わせて誘導する。
肘支持の獲得は、起き上がり動作全体の成否を左右するため、第一層を丁寧に評価・介入することが重要となる。
※資料:起き上がり第1相の姿勢図
⑥ 起き上がり第二層(上肢伸展)に必要な身体機能 肘支持からの「押し出し」ができるか
第一層で肘支持が安定したら、次のステップは「手掌支持による押し出し」である第二層になる。この段階では、上肢だけでなく体幹と肩甲帯を含めた全体の協調が必要になる。
◆ 第二層で必要な能力
・上肢支持能力 手掌で床をしっかり押し、肩甲骨を安定させられるか。僧帽筋や前鋸筋の働きが重要になる。
・体幹筋力と重心移動 体幹を前方に倒したまま保持し、骨盤を前傾方向へ誘導できるかどうか。
・協調性 上肢と体幹の力の方向が揃っているか。肩すくめや過度な側屈などの代償が出ていないかを確認する。
◆ 介入の工夫
・段階的な押し出し練習 ベッドの高さや手をつく位置を調整しながら、負荷を徐々に変えていく。
・キューイングの活用 「ここを押して」「前に乗せていきましょう」など、言語と触覚のキューを組み合わせて正しい方向へ誘導する。
・成功体験の積み上げ 一部介助で成功経験を作り、徐々に介助量を減らしながら自立度を高めていく。
第二層は「腕の力」だけではなく、体幹と肩甲帯を含めた全身の協調によって成立するステップである。
※資料:起き上がり第2相の協調運動図
⑦ 可動域制限に対するRMアプローチの体系化 ROM改善は動作獲得の入口
可動域制限は、多くの動作障害のベースに存在する。RM(Range Management)アプローチでは「ただ伸ばす」だけでなく、動作の文脈の中でROMを再構築することを目指す。
◆ 可動域制限がもたらす影響
・軌道の乱れ 関節の動きが足りない分を、体幹側屈や回旋で補おうとするため、動作軌道が不自然になる。
・筋活動の低下 本来働くべき筋が十分に使われず、廃用をさらに促進する。
・痛みの誘発 無理な代償運動が蓄積し、関節や筋に痛みが出やすくなる。
◆ RMアプローチの基本
・痛みの少ない範囲から 痛みを我慢させて伸ばすのではなく、許容範囲内で反復することで徐々に可動域を広げていく。
・動作と連動させる 寝返りでは体幹回旋、起き上がりでは股関節屈曲、立ち上がりでは足関節背屈といったように、動作とセットでROMを改善する。
・連鎖として捉える 一つの関節だけでなく、胸郭→体幹→骨盤など、連鎖の中で可動性を再構築する。
ROM改善は、単独のストレッチではなく「動作の中でどう使えるか」まで見据えて行うことで、機能的な可動域につながる。
⑧ リーチ動作と体幹協調性の再構築 45〜60°の方向性が体幹を活性化させる
リーチ動作は、上肢だけの運動に見えて、実際には体幹・肩甲帯・骨盤が高度に連動している。方向性を工夫することで、体幹協調性を自然に引き出すことができる。
◆ リーチと体幹の連動
・肩甲骨前方突出 上肢リーチに伴い肩甲骨が前方に滑ることで、重心が目標方向に移動する。
・体幹回旋 外腹斜筋・内腹斜筋の協調した活動により、体幹が回旋し、寝返りや起き上がりに必要な動きが引き出される。
・骨盤の後追い 体幹の動きに続いて骨盤が連動することで、動作全体がスムーズになる。
◆ 方向性の工夫
・45〜60°の斜め方向 真横よりもやや足側に向かった斜め方向のリーチが、最も体幹の動きを引き出しやすい。
・一緒に行うリーチ 患者任せにせず、セラピストが一緒に手を伸ばしながら誘導することで、成功体験を得やすくする。
リーチ動作は、方向性とキューを工夫することで「体幹協調性トレーニング」として活用できる。
※資料:リーチ動作時の肩甲帯・体幹連動図
⑨ ザイ保持の生理学的意義(覚醒・排泄・嚥下) 座位は“運動”であり“生命活動の基盤”
座位保持は、単に「起きている姿勢」ではなく、呼吸・嚥下・排泄・覚醒など、生命活動の多くに関わる重要なポジションである。廃用が進んだ対象者ほど、座位の質が生活全体に影響する。
◆ 覚醒と注意への影響
・前庭刺激の増加 寝位に比べて頭部位置が変わることで前庭系が刺激され、覚醒レベルが上がりやすい。
・環境への注意 周囲の人や物が視界に入りやすくなり、コミュニケーションや活動参加のきっかけになる。
◆ 呼吸・嚥下・排泄への影響
・呼吸の安定 横隔膜が働きやすくなり、胸郭の可動性も保ちやすい。呼吸パターンの正常化に役立つ。
・嚥下機能 頭頸部と体幹の位置関係が整いやすく、嚥下に適した姿勢を作りやすい。
・排泄機能 適切な座位は腹圧をかけやすく、排便・排尿の促通にも関わる。
ザイ保持は、動作獲得の途中段階ではなく「生命活動の基盤」として位置づけ、質を高めていくことが重要である。
⑩ ザイ保持が破綻する病態メカニズム なぜ座位が崩れるのか?3要因で整理する
座位が保てない背景には、身体的・社会的・心理的・神経学的な要因が重なって存在する。どの因子が強く働いているかを整理することで、対応方針が見えやすくなる。
◆ 身体的要因
・筋力低下 体幹・頸部の筋力低下により、重心位置を保ち続けることが難しくなる。
・関節拘縮 股関節や脊柱の拘縮があると、骨盤の前傾位がとれず、すぐに背もたれへ倒れ込みやすい。
・心肺機能低下 わずかな座位保持でも疲労しやすく、休息としてすぐに臥位に戻りたくなる。
◆ 社会的・心理的要因
・意欲低下 生きがいの喪失や抑うつにより、「起きて何かをしよう」という動機そのものが低下している。
・転倒恐怖 一度の転倒経験が強い恐怖として残り、座位でも身体を固めてしまい、かえってバランスを崩しやすくなる。
◆ 神経学的要因
・注意障害 姿勢保持への注意を持続できず、気づくと崩れているケースがある。
・姿勢反射の低下 外乱に対して姿勢を立て直す反応が弱く、少しの揺れでも崩れやすい。
ザイ破綻の背景要因を「身体・心理・神経」の観点から整理し、どこに介入すべきかを明確にすることが重要である。
※資料:閉じこもり要因・疫学データ図
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