廃用症候群に対する動作能力向上アルゴリズム―評価と介入を体系化するリハビリテーション戦略―
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月1回の理学療法セミナー。社内外の医療・介護従事者の学びの場として公開しています。
今回のセミナー情報
| 講義タイトル | 廃用症候群 |
| 講師 | 理学療法士 Mr.T |
| 開催形式 | WEBセミナー |
講義目次
講義内容
廃用症候群に対する
動作能力向上プログラム
① 廃用症候群の病態構造と機能低下メカニズム 廃用が身体機能に及ぼす影響を整理する
廃用が起こると 筋力・関節可動域・姿勢制御 のすべてが低下する。
特に入院・臥床が長期化すると、体幹筋・股関節周囲筋が優先的に弱くなり、起き上がりや立ち上がりに直結する “動作能力の質” が落ちる。
廃用による変化は 量的な低下(筋力・ROM) と 質的な低下(協調性・姿勢制御) の2つに大きく分けられる。
◆ 廃用で最初に落ちるポイント
・抗重力伸展筋(大殿筋・大腿四頭筋・下腿三頭筋)
・体幹の遠心性制御(動作の基盤となる)
・関節可動域(特に股関節・足関節)
これらはすべて 起き上がり → 立ち上がり → 歩行 の流れに直結する。
◆ 臨床で見落としやすい部分
・立てない=筋力不足だけとは限らない
・実際には 重心移動の失敗 や 姿勢制御の不全 が多い
・高齢者では量的変化より 質的変化 の影響が大きい
廃用は「筋力が弱る」だけではなく、動作の質全体が崩れる現象である。病態を“量”と“質”で捉えることが、正しい評価・介入の起点になる。
※資料:廃用による筋力・機能低下の構造図
② 動作能力を階層化するアルゴリズム思考の基礎 誰が行っても同じ判断になる評価フレーム
動作評価を「できる・できない」で終わらせず、
“どこが律速段階なのか” を特定するための思考法 がアルゴリズム思考。
廃用症候群では特に、
量的問題 → 質的問題 → 認知的問題 の順で整理すると判断が早い。
◆ アルゴリズム思考の役割
・多職種でも共通の判断ができる
・新人でも 迷わない評価手順 を作れる
・再現性の高い教育ツール になる
◆ 基本構造(臨床版)
・ROM は十分か?
・抗重力筋力 はあるか?
・重心移動 は可能か?
・姿勢制御 は保てるか?
・協調性 はどうか?
アルゴリズムは「判断を体系化する道具」。動作の階層構造を理解することで評価の質が一気に上がる。
※資料:能力レベルの段階区分図
③ 人体動作の階層モデル:臥位〜歩行の全体像 どの動作がどこに依存しているかを理解する
動作の獲得には順序がある。
仰臥位 → 寝返り → 起き上がり → 座位 → 立ち上がり → 立位 → 歩行
どれか1つが崩れると、後続の動作が連鎖的に崩れる。
廃用症候群ではこの“階層構造”を無視すると、治療が的外れになる。
◆ 階層モデルのポイント
・起き上がり は座位・立ち上がりの基盤
・立ち上がり は歩行の入口
・立位保持 は全ての中間ステップ
・各段階に必要な機能要素が異なる
◆ 臨床での使い方
・どの段階から崩れているかを正確に把握
・できない動作だけを練習するのではなく、
その前段階の能力から修正する
※資料:臥位〜歩行の能力段階フロー図
④ 起き上がり能力の三層構造(第1層〜第3層) 起き上がり動作を分解することで原因が見えてくる
起き上がりは大きく 3 つの層に分かれる。
第1層:体幹前傾(側臥位〜肘支持)
第2層:離殿〜最大背屈(重心前方移動)
第3層:股関節伸展(立ち上がり準備)
どの層が崩れているかで評価と治療が全く変わる。
◆ 第1層で重要なこと
・体幹の遠心性収縮
・下肢重量を使ったてこの原理
・側臥位の安定
◆ 第2層のポイント
・足関節背屈(前脛骨筋)
・支持基底面内での重心移動
・膝折れ防止のための大腿四頭筋
◆ 第3層のポイント
・股〜膝〜足の協調的伸展
・大殿筋の筋力
・骨盤前後傾の切り替え
※資料:起き上がり動作の相分け写真
起き上がりは“どの層で止まるか”を捉えると、介入方針が明確になる。
⑤ 起き上がり指示理解・認知要素の臨床的重要性 認知が動作の質に与える影響
起き上がりができない人の中には、身体機能より指示理解の低下が原因のケースが多い。
◆ 認知要素が影響する場面
・指示の誤解
・注意の持続が難しい
・身体図式の曖昧さ
・手順が頭に入らない
◆ 臨床での工夫
・“抽象語”より 具体語 を使う
・1ステップずつ区切る
・視覚情報を増やす
・身体部位を示す(例:まず足を下ろす)
起き上がりの失敗=筋力不足とは限らない。認知的側面を評価するだけで成功率は大幅に上がる。
⑥ 起き上がり不可時の評価アルゴリズム どこで止まっているかを瞬時に判断する
起き上がりができない場合、
ROM → 筋力 → 体幹機能 → 重心移動 → 姿勢制御
の順に評価すると原因が特定しやすい。
◆ 評価の流れ
・ROM(股・膝・足関節の可動性)
・筋力(抗重力伸展筋の働き)
・体幹機能(遠心性収縮・回旋能力)
・重心移動(支持基底面に収まっているか)
・協調性(上肢・体幹・下肢の連動)
※資料:可・不可の分岐アルゴリズム図
「どこで止まるか」をシステマチックに捉えることで、最短で正しい介入ポイントに辿り着ける。
⑦ 第1層(体幹前傾)の運動学と改善戦略 動作の始まりを安定させる
起き上がりの第1相では、
体幹の回旋・遠心性制御・骨盤前傾 が鍵になる。
◆ 第1層が崩れる理由
・体幹筋の弱さ
・股関節屈曲の硬さ
・身体図式の曖昧さ
・下肢重量を使えない
◆ 改善のヒント
・体幹回旋練習
・リーチ動作で体幹誘導
・股関節屈曲 ROMex
・ベッド端に近づけて下肢荷重を使う
※資料:第1相の起き上がり写真
第1層は“動作のスイッチ”。ここが改善すると、第2層以降が劇的に進みやすい。
⑧ 第2層(離殿〜最大背屈)で生じる力学的課題 支持面内での重心移動が成功するかどうか
第2層は 最も多くの利用者がつまずく層。
理由は、重心が前方へ移動する過程が難しく、
足関節背屈や大腿四頭筋の制御が必要だから。
◆ よくある失敗パターン
・足関節背屈が出ない(前脛骨筋の弱さ)
・膝折れしそうで怖い
・重心が踵側に残ってしまう
・支持基底面を越えてしまう
◆ 改善のポイント
・前脛骨筋の促通
・椅子を使った重心移動練習
・軽度荷重からの段階練習
・大腿四頭筋の等尺性収縮
※資料:離殿〜背屈の荷重移動写真
第2層を突破できるかどうかは「重心を前へ動かせるか」で決まる。
⑨ 第3層(股関節伸展)の協調性障害と介入 立ち上がり直前の“伸展の質”を整える
ここでは
大殿筋・大腿四頭筋・下腿三頭筋の協調的伸展 が要になる。
◆ 崩れるポイント
・大殿筋の出力不足
・股・膝・足の非協調
・骨盤が後傾したまま
・身体の前後バランスが崩れる
◆ 臨床アプローチ
・骨盤前傾位での立ち上がり練習
・段差を使った伸展練習
・下肢伸展のタイミング練習
・大殿筋の促通トレーニング
※資料:伸展フェーズの筋活動図
伸展の“協調性”を整えることで、立ち上がり〜歩行への移行がスムーズになる。
⑩ 高齢者に多い動作協調性障害のメカニズム 姿勢制御の質が動作全体を左右する
高齢者では動作を支える 姿勢制御系 が弱りやすい。
小脳系・脳幹系を含む中枢統合が低下すると、
立ち上がり・歩行のすべての場面でぎこちなさが出る。
◆ 協調性低下の特徴
・タイミングが合わない
・余計な筋緊張が入る
・不必要な代償運動が増える
・重心移動が極端に不安定になる
◆ 臨床で見るポイント
・小脳系の失調徴候
・感覚統合の乱れ(前庭・体性感覚)
・左右差の大きい代償運動
・バランス戦略(ankle/hip/step)の質
※資料:姿勢制御の構造図
協調性は“質的能力”の中心。廃用が重なると著しく落ちるため、姿勢制御からの再構築が重要となる。
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