パーキンソン病ケアの極意:動作から読み解く改善アルゴリズム2508PT

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今回のセミナー情報

講義タイトル パーキンソン病ケアの極意:動作から読み解く改善アルゴリズム~高齢者の「動きたい」を支えるプロのための実践教科書~
講師 理学療法士 Mr.T
開催形式 WEBセミナー

講義目次

講義内容

廃用症候群に対する/動作能力向上プログラム

① パーキンソン病の病態基盤 中脳黒質変性によるドーパミン不足と運動回路の破綻

メカニズム

本質 中脳黒質の神経細胞がゆっくり減少する

不足 ドーパミンが慢性的に足りなくなる

結果 大脳基底核の回路が乱れ、運動のブレーキが過剰に働く

臨床で起こること

動き出し 開始が遅く、途中で止まりやすい

こわばり 筋緊張が抜けにくく、動作が小さくなる

不安定 バランスの立て直しが遅れ、転倒リスクが上がる

評価の視点

前提 「筋力不足」だけでは説明できない

焦点 脳から筋への指令が通りにくい状態として捉える

実務 症状の日内変動と薬効の影響をセットで観察する

介入の考え方

準備 まず緊張を落として、脳が入力を受け取りやすい状態を作る

補助 リズムや感覚入力で運動の起動を助ける

時期 介入は薬効のタイミングを読み、効果が出やすい時間帯を狙う

➡ パーキンソン病は「筋の病気」ではなく、運動回路の病態として整理する

※資料:黒質変性とドーパミン減少の模式図

② 大脳基底核と運動制御 促進路・抑制路の不均衡が生む“ブレーキ過多”

◆ 運動を決める2つのルート

促進路 動きを出しやすくするアクセル側の回路

抑制路 不要な動きを止めるブレーキ側の回路

ドーパミン この2系統のバランスを整える要の物質

◆ 不均衡が起こす臨床像

すくみ 歩き出そうとしても足が出ない

小動作 一つひとつの動きが小さくなる

同時課題 二つの動作を同時に行うと極端に不安定

◆ 介入へのヒント

外部合図 視覚・聴覚のキューで別回路を活性化

触覚入力 触れる刺激で運動出力を後押し

分解指示 動作を一つずつ区切って伝える

➡ 症状は怠けではなく回路のアンバランスから生じる

※資料:運動指令が伝わらない神経伝達イメージ

③ 四大兆候の臨床的全体像 固縮・無動・振戦・姿勢反射障害の相互連関

◆ 四大兆候の枠組み

固縮 他動時に感じる持続的な抵抗とこわばり

無動 動き出しの遅れと動作の縮小

振戦 安静時に目立つ規則的な震え

姿勢反射障害 とっさの一歩が出ないバランス障害

◆ 臨床での捉え方

同一基盤 4つは別病態ではなく同じ原因から派生

個別性 患者ごとに主役となる症状が異なる

日内変動 薬効や疲労で強さが大きく変わる

◆ 評価のコツ

主症状 今日いちばん動きを止めている要因を探す

連動 一つ改善すると他も変わる可能性が高い

安全 姿勢反射障害の有無を最初に確認する

➡ 四大兆候のどこが“今日の主役”かを見極めて介入する

※資料:四大兆候を示すイラスト図

④ 固縮の特徴と分布 頸部・体幹優位に出現する抵抗

◆ 固縮の正体

抵抗感 他動で動かした際に途切れなく続く硬さ

タイプ 鉛管様と歯車様の二つの触知パターン

分布 末梢よりも頸部・体幹など中軸に強い

◆ 生活への影響

寝返り 首と体幹が回らず丸太様になる

起き上がり 分節運動が消え一塊で動く

呼吸 胸郭の動きが減り浅くなりやすい

◆ 介入の順序

優先 まず頸部・体幹から緊張を落とす

次段階 四肢へ広げて可動域を確保

統合 緩んだ状態で動作練習へつなぐ

➡ 手足より先に“体の芯”を整えることが動作改善の近道

※資料:鉛管様・歯車様固縮の解説図

⑤ 無動・動作緩慢の機序 動作振幅縮小と切り替え困難

◆ 症状の本質

開始困難 動き出しに時間がかかる

縮小 歩幅や声量など振幅が小さくなる

切替 動作の途中変更が極端に苦手

◆ 誤解されやすい点

努力 やる気の問題ではない

原因 運動プログラムの実行エラー

特徴 自動運動が消失しやすい

◆ 実践ポイント

分解 指示は一つずつ短く出す

拡大 大きな動きを意識させる

合図 リズムで開始を助ける

➡ 無動は“できない”ではなく“起動しにくい”状態

⑥ 姿勢反射障害と転倒リスク とっさの立ち直りが出ない理由

姿勢反射障害は、パーキンソン病の中でも最も転倒に直結しやすい症状です。 「頭では危ないと分かっているのに、体が反応しない」ことが特徴で、筋力の問題だけでは説明できません。

◆ 何が失われているのか

立ち直り反応 体が傾いた瞬間に中心へ戻す自動プログラム

保護伸展反応 転びそうな時に手や足を出す反射

重心認識 自分の体がどこにあるかの感覚

これらが低下すると、ほんの数センチの重心移動でも“制御不能”になり、彫像のように硬いまま倒れてしまいます。

◆ 現場でよく見る危険場面

方向転換 その場で回ろうとして足が絡む

後方刺激 後ろへ軽く押されると一歩も出ない

起立直後 立ち上がり直後に重心が後方へ残る

突進現象 歩き出すと止まれず前に加速

◆ 評価のポイント

軽刺激テスト 肩をそっと押して一歩が出るか

足幅 狭いほど危険度が高い

視線依存 目を閉じると急に不安定

◆ すぐにできる予防戦略

支持基底面 足幅を肩幅以上に確保

回り方 その場回転ではなく半円歩行

家具配置 つかめる場所を生活動線に

声かけ 立つ前に「いち、に」と準備合図

➡ 姿勢反射障害は“症状の一つ”ではなく転倒事故の司令塔

※資料:姿勢反射障害による転倒パターン写真

⑦ 廃用症候群という二次障害 病気以上に動きを奪う“動かない悪循環”

パーキンソン病の現場で最も怖いのは、病気そのものよりも「動かなくなること」です。 動かない時間が増えるほど、体は急速に“使えない方向”へ変化し、元の機能に戻すハードルが一気に高くなります。

◆ 廃用が起こるメカニズム

活動低下 動きにくさから生活範囲が縮小

拘縮形成 関節・筋膜が物理的に硬くなる

筋力低下 使わない筋は数週間で弱化

心肺低下 体力が落ちさらに動けない

この流れは一方通行になりやすく、 「固縮+拘縮+筋力低下」が三層に重なった状態が、臨床で見る“重い動けなさ”の正体です。

◆ パーキンソン病で悪化しやすい理由

転倒恐怖 危ない記憶が行動を止める

意欲低下 ドーパミン不足で始動が重い

姿勢反射 失調がさらに不動を強化

痛み 固縮由来の疼痛が活動を制限

その結果、 「病気→動けない→廃用→もっと動けない」 という強力な負のループが完成してしまいます。

◆ 私たちが最初にやるべき評価

固縮か拘縮か 神経性か物理性かの判別

活動量 1日の実動時間の把握

生活導線 家の中で動ける場所の確認

◆ 介入の優先順位

可動域死守 股・足首・胸郭をまず守る

⑧ 重症度分類と予後予測 Hoehn&Yahrを臨床にどう生かすか

パーキンソン病の重症度は、単なる“病気の進み具合”ではなく、 生活動作・転倒リスク・介入戦略を決める重要な羅針盤です。 同じⅢ度でも、廃用の有無で動ける量は大きく変わります。

◆ Hoehn&Yahrの臨床的な読み替え

Ⅰ度 片側症状・屋外活動は自立レベル

Ⅱ度 両側症状・歩行は保たれるが遅い

Ⅲ度 姿勢反射障害が出現・転倒増加

Ⅳ度 介助歩行が中心・生活範囲縮小

Ⅴ度 車椅子・臥床中心の生活

しかし現場では、 「分類=できること」ではありません。 同じ段階でも、薬効時間・廃用・環境で大きく変動します。

◆ 予後を左右する3要素

オンオフ差 効果時間に動作を合わせる

廃用度 分類以上に活動量が重要

環境 住宅・介護力で結果が変わる

◆ 介入目標の立て方

Ⅰ~Ⅱ度 歩行量の維持と屋外参加

Ⅲ度 転倒予防と起立・方向転換

Ⅳ~Ⅴ度 座位・移乗・拘縮予防

評価は“段階を見る道具”であり、 目の前の動作能力と結びつけて初めて意味を持ちます。

➡ 分類はレッテルではなく、介入設計の地図

※資料:Hoehn&Yahr分類と生活機能の対応表

⑨ 基本動作獲得の順序 仰臥位から歩行へ積み上げる原則

動作はバラバラに練習してもつながりません。 人の運動は「寝る→座る→立つ→歩く」という階段構造でできており、 下の段が弱いまま上だけ鍛えると、必ずどこかで崩れます。

◆ なぜ順序が大切なのか

重心 低い姿勢ほど制御が学びやすい

回旋 寝返りが歩行リズムの土台

恐怖 いきなり立位は防御を強める

転倒 基礎不足は事故に直結する

特にパーキンソン病では、 姿勢反射の弱さと固縮のために“下位動作の抜け”が起こりやすく、 ここを飛ばすと歩行練習が逆効果になることもあります。

◆ 積み上げの具体像

第1段 仰臥位で固縮をゆるめ可動域を確保

第2段 寝返りで体幹回旋を再学習

第3段 座位で重心移動と支持感覚

第4段 立位で抗重力コントロール

第5段 歩行で連続運動へ統合

◆ 現場での落とし穴

見た目判断 歩ける=基礎OKではない

回数主義 量だけ増やすと固縮が悪化

一足飛び 立位練習のやり過ぎ

➡ 基礎を固めるほど歩行は安全で楽になる

※資料:基本動作の段階的練習ムービー

⑩ 寝返り動作のアルゴリズム 第1相→第2相→第3相の連動を作る

寝返りは「ただの体位変換」ではなく、歩行につながる最初の回旋運動です。 この流れが壊れると、立ち上がり・方向転換・歩行すべてに歪みが出ます。

◆ 3つのフェーズで理解する

第1相 頸部回旋と上肢リーチで開始

第2相 肩甲帯→上部体幹の回旋

第3相 骨盤と下肢が追随して完成

正常では“首から始まる波”のように動きますが、 パーキンソン病ではこの順序が消え、丸太のような一塊の動きになります。

◆ 失敗パターンの見極め

丸太化 頭・肩・腰が同時に動く

第1相欠落 首が回らず開始できない

途中停止 側臥位手前で固まる

恐怖固定 転び不安で動きを止める

◆ 介入の組み立て

回旋準備 頸部・肩・骨盤の遊び作り

視線誘導 手と目標で第1相を起動

分割練習 1→2→3相を個別に学習

安心域 側臥位で止め恐怖を軽減

マッサージ師の強みは、 固縮で止まった関節・筋膜を“第1相が出る状態”に戻せることです。 ここが開くと、患者さんは自分で動き始めます。

➡ 寝返りは回旋の連鎖、首から始めるのが鉄則

※資料:寝返り3相の動作写真

最後までご観覧いただき、ありがとうございました。

ALSOKケアプラスのセミナー活動が、皆さまの学びと現場の支援に少しでもお役立ていただけましたら幸いです。
今後も定期的に最新のセミナーレポートを公開してまいります。