起き上がりは二層で見抜く!迷わない施術の型 FRB_202607

「できない」を「どこまでできるか」に変える。起き上がり改善プログラム

FRB 研修テキスト/起き上がり動作編

起き上がりは二層で見抜く!迷わない施術の型

「できない」を「どこまでできるか」に変える。ベテランの頭の中を見える化した、起き上がり改善プログラム

ベテランの先生は、ご利用者様の動きを見た瞬間に「ここをこうすれば、こう変わる」と頭の中で道筋を描いています。けれど、その思考は外からは見えません。本講義は、その思考の道筋をフローチャートとして見える化し、誰でも迷わず同じ手順で評価と施術ができることを目指した内容です。今回は寝返りの次の段階、起き上がり動作を丁寧に学びます。

1. 問題定義:「起き上がれない」と一括りにしていませんか

ご利用者様が起き上がれないとき、つい「起き上がりの練習をしましょう」と動作を丸ごと繰り返させてしまいがちです。しかし、できない動作を丸ごとやらせても、なかなかできるようにはなりません。

なぜなら、動作とは、一つひとつのフェーズが組み合わさってできているものだからです。「全部できない」のではなく、「ここまではできるけれど、ここから先ができない」。このどこでつまずいているかを見抜く分析こそが、私たちに求められる専門性です。

動作と姿勢の違いを押さえる

区分見るべきポイント
動作寝返り、起き上がりなど。各フェーズができるかどうかを分けて確認します。
姿勢座位など。フェーズはなく、その姿勢を維持できるかどうかがポイントです。リスクが比較的少なく、経験の浅い方も取り組みやすい領域です。

起き上がり動作は「二つの層」に分かれる

層範囲最大のポイント
第一層背臥位から体幹を回旋して側臥位になり、肘で体幹を起こして片肘で支えるオンエルボーまで肘で体幹を起こし、支える
第二層オンエルボーから肘を伸ばし、手のひらで支えるオンハンドを経て座位まで肘を伸ばし切り、重心を移す

ワンポイント:フローチャートは堂々と見せてよい

手順表をご利用者様の前で確認すると「頼りない」と思われるのでは、と心配する必要はありません。紙一枚にまとめ、「どこまでできるか一緒に確かめていきましょうね」と声をかければ、ご利用者様やご家族と目標を共有する道具になります。医療機関でも日常的に行われている方法です。

2. 原因と問いかけ:どの層で、なぜ止まるのか

ここでは臨床でよく見る「つまずきパターン」と、その背景にある原因を整理します。各パターンの前に、まず自分で原因を考えてみることが、見立ての力を育てる近道です。

第一層でつまずく主なパターン

よく見る現象考えられる原因
サイドバーをつかみ、腕の力だけで引き上がろうとして失敗する両脚をベッドから下ろせていない。脚を下ろすと重さでシーソーのようなカウンターウェイトが働き、体幹が起きやすくなります。下ろせないと上半身の力だけに頼ることになります。
引っ張っても手だけが来て、体がついてこない体幹の支持性の不足。引くと同時に体幹を安定させて屈曲させる力が足りません。
オンエルボーになれても保てず、後ろへ倒れていく体幹の支持性に加え、支えている側の肩甲骨の不安定性。さらに肘をつく位置も影響します。

見落としやすい「ポジショニング」の視点

私たちは筋力や可動域といった身体機能に目が向きがちですが、肘をつく位置とお尻の位置だけで、難しさは大きく変わります。

・肘の位置:体から遠い位置や前方につくほど不安定になります。体の側面に沿って、体幹と平行になる位置につくことが大切です。

・お尻の位置:カウンターウェイトが使える位置にお尻をセットできているかを確認します。そもそもの位置が悪いと、テコの原理が働きません。

高齢のご利用者様で特に注意したいこと

年齢そのものより、円背による体格の小ささが影響します。円背の小柄な方は寝返りがこぢんまりと小さく、ゴロンと向こうまで転がれないため脚を投げ出せません。さらに下肢の重み自体が少ないため、カウンターウェイトが働きにくいのです。

第二層でつまずく主なパターン

問いかけ1:肘が少し曲がったまま、途中で止まってしまうのはなぜでしょう?

まず考えられるのは、押す力を担う上腕三頭筋の筋力低下です。しかし、その前に確認したいのが肩甲骨の安定性です。上腕三頭筋は肩甲骨にも付着しているため、肩甲骨が不安定だと働きにくくなります。

円背の方は肩甲骨が前に倒れ、外へ開いた位置になりやすく、もともと支持性が低い状態です。円背そのものを直すのは現実的ではないため、使えていない肩甲骨周囲の筋を活性化し、今の姿勢のままでも安定させることを目指します。

問いかけ2:肘は伸びているのに、体が斜めのまま止まってしまうのはなぜでしょう?

原因は重心移動がうまくできないことです。起き上がりの途中では、重心を片側のお尻から反対側のお尻へ少しずつ移す必要があります。体幹の安定性に加え、重心をスライドさせるという動きの質の問題が隠れています。

高齢の方は、体の一部だけを動かす分離運動が苦手です。若い人の体を自在に動くタコに例えるなら、高齢の方は関節のつながったロボットのようなもの。骨盤だけを動かそうとしても全体が動いてしまいます。その背景には、目に見える可動域制限とは別次元の、小さな拘縮の積み重ねがあります。

ワンポイント:動かしたい関節の「一つ中枢」を見る

ある関節をうまく動かすには、そのひとつ体の中心寄りの関節が安定していることが条件です。肘を伸ばしたければ肩甲骨と肩関節、腕を上に上げたければ胸郭と体幹。肘が伸びないとき「三頭筋が弱い」で終わらせず、三頭筋が働きにくい環境になっていないかと考える視点が、施術の質を一段引き上げます。

3. 対策:層ごとに迷わない施術プログラム

起き上がりアルゴリズムの流れ

評価の結果次に行うこと
起き上がりができる座位の評価へ進む
第一層も第二層もできない第一層から練習する
第一層はできるが第二層ができない第二層を集中的に練習する

できていることを繰り返しても、改善は遠回りになります。仕事でも、課題を一度に山ほど渡されると何から手をつけてよいか分からなくなりますよね。ご利用者様も同じです。「まずはここからやりましょう」と課題を一つに絞ることで、混乱を防ぎ、上達を早められます。

第一層への対策:動作を使って筋を鍛える

準備として、カウンターウェイトに欠かせない股関節と膝関節の屈曲の可動域、そしてリーチ動作ができるかを確認します。そのうえで、次の順に段階を上げていきます。

段階方法と狙い
ステップ1
姿勢保持
オンエルボーの姿勢を一緒につくり、施術者が肩甲骨と胸郭をしっかり支えて10秒保持。休んで繰り返します。それだけで腹筋群の運動になります。
ステップ2
自動介助で上げ下げ
側臥位からオンエルボーへ、一緒に上がって戻ります。施術者は自分の脚でご利用者様の下肢を誘導してカウンターウェイトをつくり、手で肩甲骨を支え、肘を固定。体幹と肩甲骨周囲筋を同時に鍛えられる一石二鳥の方法です。
ステップ3
リーチで起き上がる
反対側の手を前へ伸ばす勢いで起き上がります。応用範囲の広い、一段難しい方法です。

介助のコツ

・最初はしっかり支えても、ご利用者様がコツをつかんだら少しずつ介助を減らし、ご本人の力を引き出します。

・上半身を強く引き上げるより、下肢側を操作して自然に起き上がりを誘導するほうが、最大の力を引き出せます。

・戻るときもゆっくり下ろすことで、体幹の筋が伸びながら働く運動になります。

比較引っ張り型リーチ型
動き方サイドバーを握り、ぐっと引き寄せる手を前へ伸ばしながら起き上がる
体の状態全身に力が入り固まるため、次の動作に移りにくい体に余裕と自由度が残り、肘を伸ばす次の動作へ滑らかにつながる
声かけ例―「こちらへパンチしてきてください」「私の手から離れないようにしてくださいね」

第二層への対策:脚の支えと重心移動

課題施術のポイント
下肢の支持性足裏で床をしっかり押せれば、腕だけでなく脚の力でも起き上がれます。施術者の脚や台を床に見立てて押してもらい、押すタイミングと肘を伸ばすタイミングを同時に合わせます。膝が伸びてしまう押し方は誤りです。
肘が伸び切らない片手で肩甲骨、もう片手で胸郭を支えて肩甲骨を安定させると、三頭筋が働きやすくなります。支えるだけで動きが大きく変わることを、施術者の手でも感じ取れます。
斜めで止まるお尻の下に手を入れ、「こちらへ移しますよ」と声をかけながら骨盤を押して左右に重心を移す練習をします。重心は見た目だけでは判断しにくいため、必ず手で触れて確認します。

ワンポイント:重心移動のカギは骨盤

重心は骨盤の前方付近にあるとされています。そのため、骨盤を直接動かして誘導するのが最も効率的です。また、小さな拘縮の積み重ねが滑らかな動きを妨げているため、日頃のマッサージで硬さを丁寧にほぐしておくことが、動作改善の土台になります。

4. まとめ:重要ポイントと振り返りシート

本講義の重要ポイント3

ポイント1:動作は層に分けて評価する

起き上がりは第一層と第二層。どこまでできて、どこからできないかを見抜き、できない層を集中的に練習します。

ポイント2:筋力の前に、位置と一つ中枢の安定を見る

肘やお尻の位置、カウンターウェイト、肩甲骨の安定。環境が整えば、同じ筋力でも動きは変わります。

ポイント3:動作を利用して鍛え、介助は少しずつ減らす

動作練習そのものを筋力トレーニングにし、ご本人の力を最大限に引き出す誘導を心がけます。

学びの振り返りメモ

・起き上がりの第一層と第二層の範囲を、自分の言葉で説明できますか。

・担当しているご利用者様は、どちらの層でつまずいていますか。

・「三頭筋が弱い」以外に、肘が伸びない理由を二つ挙げられますか。

・明日の施術で、まず一つ試してみたいことは何ですか。

チェック練習表

確認項目チェック
起き上がりを第一層と第二層に分けて観察した□
両脚を下ろしてカウンターウェイトを使えているか確認した□
肘とお尻の位置を整えてから動作を促した□
肩甲骨と胸郭を支えて、オンエルボー保持を練習した□
足で押すタイミングと肘を伸ばすタイミングを合わせた□
骨盤に触れて、重心移動を手で確認した□

目標再確認シート

期間目標の例
今週担当のご利用者様一人について、つまずいている層と原因を見立てる
1か月後層に合わせた練習を施術に組み込み、介助量の変化を記録する
3か月後フローチャートを使い、ご利用者様やご家族と一緒に目標を共有できる

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次の「エピソード」の公開を、ぜひ楽しみにお待ちください。あなたの臨床が変わる瞬間を、共に。

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➤【掲載事例について】

本掲載事例は実際の利用者様の事例をもとに作成しています。個人情報保護のため、画像・氏名・その他個人を特定できる情報はAI加工および匿名化処理を行っています。

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