【ケーススタディー C020】「歩く練習」からではなく、なぜ「関節を動かす」から戻したのか

ケーススタディー C020

実際の訪問マッサージ症例をもとに、施術師が現場で何を見て、何に迷い、どう判断したかを記録したケーススタディーです。

「歩く練習」からではなく、なぜ「関節を動かす」から戻したのか ― 一度失った足踏みを取り戻すまで

80代男性の足踏み歩行の変化 Before After

「もう一度、主人に歩いてほしい。」――そう願うご家族と共に、施術師が何年もかけて向き合ってきた症例があります。まっすぐ良くなり続けたわけではありません。良くなっては、また崩れる。それでも同じ動作を諦めずに積み重ねてきた記録です。訪問マッサージという仕事の現場で、施術師が何を見て、何に迷い、どう手を動かしてきたのか。今回のケーススタディーでお伝えします。

ご利用者情報

80代・男性 在宅(奥様と二人暮らし) 週2日デイサービス/週1日訪問看護/週3日ヘルパー
既往歴
  • レビー小体型認知症によるパーキンソン症候群
  • 関節拘縮
  • 筋萎縮
  • てんかん
  • 右手関節骨折(既往)
  • 胆石(既往)
  • 誤嚥性肺炎(既往)

エピソード紹介

インフルエンザ入院後、足が前に出ない様子

以前は車の運転をしたり、器具を使った運動をしたりと、ご自身のペースで体を動かしていらっしゃったそうです。あるときからパーキンソン様の震えを伴う発作が現れるようになり、3回ほど転倒。検査の結果、レビー小体型認知症と診断されました。診断を境に、少しずつ体を動かす機会が減っていったといいます。

下肢の筋力が落ちていくのを感じたご家族から、リハビリとマッサージのご依頼が届いたのが、このケースの始まりでした。ご家族の要望はシンプルで、そして切実なものでした。デイサービスに行くときは、自分の力で車椅子に移りたい。せめてトイレくらいは、自分の足で行きたい。「もう一度、主人に歩いてほしい」――その願いを胸に、施術がスタートしました。

施術師としての工夫が光ったシーン

座位での関節運動・下肢筋力へのアプローチ

最初の数年は、大きな崩れもなく過ごされていました。座った姿勢でのマッサージと関節運動、立位での足踏み歩行。決まった流れの中で、少しずつ動きの質を上げていく――そんな時間が続いていました。

流れが変わったのは、2025年1月のことです。インフルエンザにかかり、1週間の入院。退院後にお会いしたとき、正直なところ戸惑いました。それまでできていた、小刻みに足を踏み出す動作が、まったく取れなくなっていたからです。記録上の寝たきり度も、一気にC2まで落ち込んでいました。

どこから手をつけるべきか、すぐには決められませんでした。以前と同じように、立位からいきなり足踏みを促すべきなのか。それとも、もっと手前から組み立て直すべきなのか。

迷った末に選んだのは、一見遠回りに見える選択でした。まず座った姿勢での関節運動から始め、関節可動域と筋の反応を一つずつ確認する。そのうえで立ち上がりの練習、スクワット、そして片足を一歩前に出す動作へと、段階を踏んでいく。「歩く練習」からではなく、あえて「関節を動かす」ところから戻すことにしたのです。

根気強く続けるうちに、ある日、介助を受けながらではありますが、前後に足を踏み出す動作がまた戻ってきました。方向転換もできるようになり、車椅子からダイニングテーブルへ移動することもできるようになりました。以前できていた動作だったからこそ、体のどこかに記憶が残っていたのかもしれません。

チームで信頼が生まれた瞬間

ベッドから車椅子への移乗も、最後のわずかな微調整を除けば、ご自身の力で行えるようになりました。介助する側も、以前ほど力任せにならずに済むようになったといいます。

起居動作そのものは、今もまだ介助が必要な場面が多く残っています。それでも奥様のお話では、調子の良い日には、ご自身の力で座位を保っていられることがあるそうです。そういう日は、介助がとても楽になるといいます。

ご利用者・ご家族・関係者の声

娘は上の階に住んでいますが、普段は夫婦二人で過ごしています。このまま歩けるようになってくれるのではないか――そう希望が持てるようになりました。

(ご家族より)

数字で見る変化

施術師・奥様と一緒に取り組む足踏み歩行の場面
歩行
最も悪かった時期(2025年1月・入院直後/全介助相当)
現在(5点・中等度介助)

2025年1月のインフルエンザ入院直後は、小刻みに足を踏み出す動作が全く取れない状態でした。そこから介助付きの足踏み歩行を取り戻しつつある、その途中の数字です。

移乗(ベッド・車椅子)
最も悪かった時期(2025年1月・入院直後/全介助相当)
現在(10点・軽度介助)

入院直後は、ベッドから車椅子へ移すにも介助者の力技が必要な状態でした。現在は最後の微調整以外はご自身の力で行えており、ご家族が望んでいた「自立での車椅子移乗」に近い状態まで戻ってきています。

トイレ動作
現在:0点(全介助)

トイレ動作については、入院前後を通じて明確な「悪化」「回復」の記録がなく、現在も全介助の状態です。「自立でトイレに行ってほしい」というご家族の願いには、正直まだ届いていません。ここは今も残っている課題です。

寝たきり度
最も悪かった時:C2(2025年1月) 現在:B-1

施術開始時はA-2で自立に近い状態を保っていましたが、2025年1月のインフルエンザ入院を機に一時C2まで悪化。そこから回復した現在の数字です。

意欲評価(食事・意思疎通)
初期・最良・現在いずれも「2(意欲的)」を維持

身体機能に浮き沈みがある中でも、食事や会話への意欲は一貫して高いままでした。

10件
このご家族からのリピーターご依頼件数
施術の組み立て
1起居動作(見守り+一部介助)
2車椅子移乗練習(一部介助)
3座位でのケア
全身マッサージ
関節他動運動・関節自動運動
下肢筋力練習
4立位保持練習
5動作練習
立ち上がり
スクワット
足踏み歩行

学び続ける姿勢

パーキンソン症状は、良くなったり悪くなったりを繰り返します。今回の経過を通して感じたのは、一度何かのきっかけでブレイクスルーが起きると、そこから浮き沈みして元に戻るまでの時間が、少しずつ短くなっていくということです。

歩行に関しては、以前できていた記憶が体のどこかに残っていたのだと思います。関節運動から立ち上がり、スクワット、足を一歩出す動作、そして足踏み歩行へ――順を追って根気強く取り組んでくださったからこそ、戻ってきたのだと思います。奥様が施術に付き添い、会話をしながら取り組めていることも、大きな支えになっているのかもしれません。

トイレでの自立という、ご家族が最初に願っていた目標には、まだ届いていません。次にインフルエンザや肺炎で体調を崩したとき、今度はどこまで早く戻ってこられるか。それを確かめながら、これからも筋と脳への刺激を入れ続けていきます。

ケアプラスからのメッセージ

今回のケースのように、順調な右肩上がりだけでは終わらない症例は珍しくありません。それでも一つひとつの反応を見ながら、根拠を持って組み立て直せる力は、一人で抱え込んで身につくものではないと考えています。ケアプラスでは、社内セミナーや症例検討を通じて、こうした判断の引き出しを増やせる環境を用意しています。

「ケアプラスで働くと、施術師として成長できる。」――私たちが一番大切にしている考え方です。技術を本気で磨きたい方、学び続けたい方は、ぜひ一度お話を聞きにいらしてください。

【掲載事例について】本掲載事例は実際の利用者様の事例をもとに作成しています。個人情報保護のため、画像・氏名・その他個人を特定できる情報はAI加工および匿名化処理を行っています。
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