【ケーススタディー C007】 「痛いから怖い」が「歩くのが楽しい」に変わるまで
実際の訪問マッサージ症例をもとに、施術師が現場で何を見て、何に迷い、どう判断したかを記録したケーススタディーです。
「痛いから怖い」が「歩くのが楽しい」に変わるまで
身体を良くする技術だけでは、人は動いてくれません。特に、痛みへの恐怖や気持ちの落ち込みを抱えている方には、技術の前に信頼が要ります。 今日は、円背のある方を担当した施術師の記録をもとに、「声かけ」をどう技術として組み立てたのかをお伝えします。
ご利用者情報
- 右大腿骨頸部骨折
- アルツハイマー型認知症
- 2型糖尿病
- うつ病
- てんかん
- 甲状腺機能低下症
きっかけ:転倒・入院を経て、円背と恐怖を抱えたAさん
施設での生活中に転倒し入院、退院後にご依頼をいただきました。
前傾姿勢で円背が見られるため、マッサージと下肢筋力強化のリハビリを希望。できたら歩けるようになれば、とのことでした。
初回訪問時、Aさんは移乗の際に腰部や腹部の痛みを訴え、体位を変えるとめまいも出ていました。うつ病もあり、運動そのものへのネガティブな発言も少なくありませんでした。「痛いから怖い」。この一言が、最初の壁でした。
この事例の核心:技術の前に、なぜ「声かけ」を優先したのか
正しい立位の仕方や体位交換の仕方を教えれば、痛みは減らせるはずだという見立ては、最初からありました。ただ、それをそのまま伝えても、Aさんが動いてくれるとは限りません。痛みへの恐怖と気分の落ち込みがある方に、正論の技術指導だけをぶつけても、身体が緊張してかえって痛みが強く出ることもあります。
ここで迷ったのは、技術指導を急ぐべきか、それとも先に安心してもらうことを優先すべきか、という順番でした。最終的に選んだのは、運動の成功体験を先に増やし、できたことに対してプラスの声かけを常に行うというやり方です。技術指導そのものは変えず、それを受け取ってもらうための土台を、声かけで作るという判断でした。
少しずつ、痛いから怖いと言っていたAさんが、正しい立位の仕方や体位交換の仕方のレクチャーを「ホンマやな」と受け止めてくれるようになりました。信頼が先にあってはじめて、技術が届くのだと感じた場面です。
実際に組み立てた流れは、以下の通りです。
運動の一つひとつに、できたことへの声かけを添える。この地味な積み重ねが、Aさんの中で「歩くことは怖いこと」から「歩くことは楽しいこと」に変わっていくきっかけになりました。
チームで信頼が生まれた瞬間
Aさんから「歩くことが楽しい」というポジティブな言葉が増えてきた頃、それを施設のスタッフの方にも伝えるようにしました。すると、協力しますとの返事をいただき、実際に日々の関わりにも変化が生まれました。
ある訪問時に「今日は居室内を歩くことができました」とスタッフの方に伝えたところ、次の訪問時には「廊下を歩行することができました」と報告してくださいました。私が伝えたことを、スタッフの方が日常の中で実践し、その結果をまた伝えてくださる。この往復が、Aさんの改善を後押ししてくれました。
歩けるようになって良かった。その後、次のステップとして浴槽をまたげるようになれば、という要望も出てきました。(ご本人様・ご家族様・施設の方より)
数字で見る変化
次の目標ができたこと
今回、私が意識したのはただ一つ、「歩きたい」というAさんの言葉を拾い続けることでした。その言葉を施設のスタッフの方にも共有し続けたことで、私だけでなく施設全体でAさんを支える形ができていきました。
浴槽をまたげるようになりたい。それが、Aさんとご家族から出てきた次の要望です。移乗や歩行のときと同じように、まずは何が怖いのかを聞くところから始めることになると思います。
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