その「いつものむせ」を、見逃さないプロになる。

飲み込みの筋肉・口腔ケア・フィジカルアセスメントで、ご利用者様の「食べる力」と「命」を守る

STによる誤嚥対策プロフェッショナル研修

その「いつものむせ」を、
見逃さないプロになる。

飲み込みの筋肉・口腔ケア・フィジカルアセスメントで、
ご利用者様の「食べる力」と「命」を守る

高齢のお客様と向き合う、まじめで熱心なあなたへ。
この知識を身につければ、現場での気づきが変わり、あなたはもう一段プロフェッショナルになれます。

目次

  1. 1誤嚥性肺炎とは何か 問題の正体を知る
  2. 2誤嚥と誤嚥性肺炎はどう違うのか
  3. 3むせない誤嚥という落とし穴
  4. 4お口の衰えが全身を壊す オーラルフレイル
  5. 5飲み込みは筋肉である 老化という原因
  6. 6病気が引き起こす飲み込みの障害
  7. 7のどの骨を知る 甲状軟骨と舌骨
  8. 8姿勢とアライメントが飲み込みを決める
  9. 9今日から使える飲み込みの筋トレ6種
  10. 10反復唾液嚥下テスト 30秒で分かる評価
  11. 11フィジカルアセスメント プロの観察眼
  12. 12スポンジブラシを持てる施術者になる
  13. 13治療と予防、そしてむせた時の対応
  14. 14まとめと振り返りシート
  15. 15受講者の声と運営からのメッセージ

PART 1

問題定義 誤嚥性肺炎という敵を知る

1 誤嚥性肺炎とは何か

私たちの体は、日々食べたものからできています。血となり肉となる食事は、まさに生きることそのものです。だからこそ「食べる力」を守ることは、ご利用者様の命を守ることに直結します。

食べ物や唾液、逆流物が、本来入るべき食道ではなく気管に入ってしまうことを誤嚥といいます。そして、誤嚥によって引き起こされる肺炎が誤嚥性肺炎です。高齢者の入院原因の第1位は肺炎であり、その多くがこの誤嚥性肺炎です。

ワンポイント

「骨折で入院した人が、なぜ誤嚥性肺炎に?」——不思議ではありません。骨折して入院する高齢者は、もともと筋力が落ちている方が多く、数日の安静や絶食で一気に飲み込みが低下します。どんな病気であっても、高齢者は誰もが誤嚥性肺炎のリスクを抱えていると考えてください。

2 誤嚥と誤嚥性肺炎はどう違うのか

のどには2本の道が交差しています。食べ物が通る咽頭と、空気が通る喉頭です。飲み込むとき、甲状軟骨がグッと上に持ち上がり、喉頭蓋がフタをして、食べ物を食道へ導きます。この持ち上がりが弱いと、フタが不十分になり、食べ物が気管へ流れ込みます。

用語 意味
誤嚥 食べ物や唾液が食道ではなく気管に入ってしまうこと
誤嚥性肺炎 誤嚥が原因で起こる肺炎。無菌のはずの肺に細菌が入り炎症を起こす
誤嚥兆候 むせ、嗄声、食後ののどのゴロつきなど

健康な私たちも、じつは夜間に唾液を誤嚥することがあります。それでも肺炎にならないのは免疫力が十分だから。免疫力の落ちた高齢者は、少しの誤嚥で、風邪を通り越して肺炎になってしまうのです。

3 むせない誤嚥という落とし穴

気管に食べ物が入れば、防御反応として咳が出て「むせ」ます。ところが高齢者では、気管に入っても全くむせない方が少なくありません。のどの感覚が低下し、むせる力そのものが弱っているためです。これを不顕性誤嚥といいます。

ここが最大の落とし穴です。「むせていないから大丈夫」は通用しません。気管に入ったかどうかは外から見えない——だからこそ、私たちの日々の観察が命綱になります。

4 お口の衰えが全身を壊す オーラルフレイル

オーラルフレイルとは、「少し噛みづらい」「たまにむせる」「滑舌が落ちた」「口が乾く」といった、お口の軽度な機能低下のこと。嚥下障害とまではいかない、小さなサインの集まりです。

2018年の柏スタディという有名な研究で、オーラルフレイルを放置した人は、そうでない人に比べて次のようなリスクが高まると報告され、大きな驚きをもって受け止められました。

放置した場合に高まるリスク 上昇の目安
フレイル・サルコペニアの新規発症 約2倍以上
要介護認定 約2倍以上
総死亡 4年後の時点 約2倍以上

裏を返せば、お口のケアをしっかり行えば、これらのリスクを抑えられるということ。この研究をきっかけに、国もオーラルフレイル対策に力を入れるようになりました。

PART 2

原因と問いかけ なぜ飲み込めなくなるのか

考えてみましょう

「飲み込み」は、筋肉で動いているのでしょうか? 歩くことに筋力が必要なように、飲み込むことにも筋力は必要なのでしょうか?

5 飲み込みは筋肉である 老化という原因

答えは「はい」。飲み込みは、まぎれもなく筋肉の働きです。手や足の筋力が加齢で落ちるのと同じように、飲み込みの筋力も年齢とともに低下します。つまり、嚥下障害の大きな原因のひとつは老化そのものなのです。

やっかいなのは、手足の衰えは「歩けなくなった」と自覚しやすいのに、飲み込みの衰えは本人も家族も気づきにくいこと。ご本人に「嚥下障害ですよ」と伝えても、めちゃくちゃむせているのに「いつものことです」と受け流されてしまう。ここが手足との決定的な違いです。

ワンポイント

歩行がリハビリで改善するように、飲み込みも「食べているだけ」では良くなりません。放っておけば衰える一方。だからこそ、後半で紹介する飲み込みの筋トレが生きてきます。

6 病気が引き起こす飲み込みの障害

原因は老化だけではありません。神経や筋肉に影響する病気も、飲み込みを直接おびやかします。代表的なものを整理します。

分類 代表的な病気・状態
脳の病気 脳卒中。脳梗塞や脳出血
神経・筋の病気 パーキンソン病、ALS、重症筋無力症、多発性筋炎
声帯の麻痺 反回神経麻痺。嗄声が出て、気管に入りやすくなる
口やのどのがん 喉頭がん、咽頭がん、舌がん
その他 認知症、逆流・嘔吐による誤嚥。胃酸は酸性のため重篤化しやすい

ここに挙げたのは有名な病気ですが、繰り返しになりますが、どんな病気であっても誤嚥性肺炎のリスクはあると考えてください。飲み込みは、のどだけの問題ではなく全身の状態を映す鏡だからです。

7 のどの骨を知る 甲状軟骨と舌骨

飲み込みの筋肉を理解するために、まず2つの部位に触れてみましょう。

部位 特徴
甲状軟骨 のど仏がある骨。中は気管の通り道。飲み込む時に上へ持ち上がる
舌骨 甲状軟骨の上にあり、他の骨と関節を作らずぶら下がっている。この骨が動くことで甲状軟骨が動く

この舌骨に付着する筋肉こそが、飲み込みの主役「嚥下関連筋群」です。舌骨の上についているものを舌骨上筋群、下についているものを舌骨下筋群と呼び、咽頭期の最重要筋肉とされています。数や名前を暗記する必要はありません。大切なのは、次のイメージを持つことです。

  • 舌骨上筋群は、あご下や耳のうしろに付いている
  • 舌骨下筋群は、甲状軟骨・胸骨・肩甲骨にまで付いている

8 姿勢とアライメントが飲み込みを決める

飲み込みの筋肉は、あご・側頭骨・胸骨・肩甲骨といった体のあちこちにつながっています。だから、頸部や体幹が崩れると飲み込みも悪くなります。仙骨座りになると、頭が前に出て筋肉が伸ばされ、うまく収縮できなくなるのです。

ワンポイント

飲み込みは「のどだけ」を見ても良くなりません。姿勢を整える・頸部や肩甲骨まわりの動きを保つ・体幹を保持する——ここはまさに、体に向き合うあなたの得意分野。そこに飲み込みの筋トレを一つ加えるだけで、効果は大きく変わります。

PART 3

対策 現場で使える技術のすべて

9 今日から使える飲み込みの筋トレ6種

飲み込みの筋肉に働きかける、簡単で効果的な訓練を6つ紹介します。いずれも道具いらずで、その場でできます。目安は1回5〜10秒・各5回程度です。

訓練名 やり方 難易度
開口保持訓練 口をできるだけ大きく開けたまま10秒キープ。開け閉めせず「開け続ける」のがコツ やさしい
舌突出保持訓練 舌をしっかり前に出したまま10秒キープ。飲み込みの筋肉と一部を共有している やさしい
あいうべ体操 「あ・い・う・べ」と口を大きく動かし、最後に舌を出す。一つずつゆっくりが基本 やさしい
おでこ体操 手のひらの付け根をおでこに当て、へそを覗き込むようにあごを引き、押し合ってキープ ふつう
あご持ち上げ体操 親指をあご下に当て、あごを引いて押し合いキープ。机に肘をついて行う応用もある ふつう
舌突出ごっくん 舌を出し唇で軽く挟み、そのまま唾を飲み込む。のどの奥に力が入る感覚が得られればOK むずかしい

ワンポイント 相手に合わせて選ぶ

認知機能の低下があり指示が入りにくい方には、開口保持・舌突出保持・あいうべ体操がおすすめ。一緒におどけた表情でやると、拒否されにくくなります。舌突出ごっくんは効果が高い反面、認知機能も飲み込みも保たれている方向けです。おでこ体操とあご持ち上げ体操は効く場所はほぼ同じなので、ご利用者様が理解しやすい方を選んでください。

10 反復唾液嚥下テスト 30秒で分かる評価

反復唾液嚥下テストは、30秒間で唾液を何回飲み込めるかを数えるだけの簡単な評価です。誤嚥のリスクを手軽に確認できます。

  • 1のど仏に、人差し指と中指を軽く当てる
  • 230秒間、できるだけ多く唾液を飲み込んでもらう
  • 3指を越えて上下する回数を数える
30秒間の回数 判定
3回以上 正常
2回以下 誤嚥のリスクあり・飲み込み機能の低下が疑われる

ワンポイント やる前の下準備

正しく評価するには2つの準備が欠かせません。1つは姿勢を整えることもう1つは口の中を乾燥させないこと。高齢者は唾液が減って口が乾きがちです。スポンジブラシで軽く口を湿らせてから行うと、正確に評価でき、訓練の効果も上がります。

11 フィジカルアセスメント プロの観察眼

むせない誤嚥がある以上、「観察」がすべての出発点です。STが飲み込みを見るときの5つの視点を共有します。在宅では特に、感染症・脱水・低栄養のサインを早く見つけることが大切です。

観察点 見るポイント
姿勢 円背がないか、頸部が伸展していないか、のどの位置が下がっていないか
声が小さくないか、呼吸量の低下、嗄声がないか、声帯の締まりが悪いサイン
咳の真似ができるか、コンコンかゲホゲホか
口の中 乾燥・汚れ・食べ残し、歯や歯肉の状態、舌の左右差、入れ歯が合っているか
呼吸 呼吸数、呼吸様式、痰の色や量。血圧に加えて呼吸数もぜひ測る

咳には4つの種類がある

自発的な喀出 気管に入って自然に出る咳
随意的な喀出 「咳の真似をして」と促して出す咳。自発的にはできても随意的にできない人は要注意
乾いた咳 コンコン のどの乾燥や喘息など、痰を伴わない咳
湿った咳 ゲホゲホ 水分や痰が声帯の上にあるときに出る、痰がらみの咳

咳は、息を吸い、声帯を閉じて肺に圧をため、一気に開いて吐き出す仕組み。声帯をうまく閉じられないと咳ができません。だから「咳の真似」ができるかが、喀出力を知る鍵になります。喀出力があれば、誤嚥を自分で防げるのです。

呼吸数のめやす

1分間の呼吸数 状態
12〜20回 正常
9回以下 徐呼吸。呼吸が抑制された危険な状態
26回以上 頻呼吸。何か異常が起きている可能性

ワンポイント 数字より「その人の普段」

呼吸数には個人差があり、正常と異常の間にはグレーゾーンがあります。大切なのは、その人の普段の呼吸数を知っておくこと。普段12回の人が急に24回になれば、たとえ正常範囲でも「おかしい」と気づけます。呼吸数30回以上になると食事中に息を止めづらく、食べること自体がつらくなります。

12 スポンジブラシを持てる施術者になる

口腔ケアは、感染症の予防にも治療にも効果的な、まさに「薬」です。口の中が汚れると、低栄養・サルコペニア・誤嚥性肺炎だけでなく、認知症・脳梗塞・心筋梗塞のリスクまで高まります。食事をしていない方でも、感染予防のため1日3回のケアが必要です。誤嚥性肺炎は夜間の唾液誤嚥で起こることが多いため、就寝前のケアは特に重要です。

お口のチェックポイント

  • 乾燥はないか/舌苔はないか/食べ残しはないか
  • 汚れはないか/歯茎の腫れや出血はないか/入れ歯は合っているか

スポンジブラシの使い方

  • 1湿らせた後、水気をしっかりしごいて切る。余分な水分は誤嚥のもと
  • 2奥から手前へ、下から上へ、くるくる回しながら動かす
  • 3頬の内側は左上・右上・左下・右下とは食べ物がたまりやすいので分けて丁寧に
  • 4上あごは嘔吐反射が出やすいので、軽く触れてサッと逃げる。舌はスポンジブラシで代用可

認知機能の低下がある方は、ブラシをぐっと噛んでしまうことがあります。無理に引かず、落ち着いて待てば向こうから開けてくれます。コップに水を入れて持参し、口の体操の前に「チェックしますね」と声をかけてベッド上で行うのがスムーズです。

歯ブラシの当て方

方法 当て方と効果
スクラッピング法 毛先を歯の面に直角に当て、細かく動かす。歯の表面の汚れを落とす
バス法 歯と歯肉の境目に毛先を45度で当て、細かく振動。歯周ポケットにアプローチできる

入れ歯の手入れ

食べたら水で洗い、専用ブラシで汚れを取って装着。就寝前は外し、入れ歯洗浄剤に入れて保管します。起きたら洗ってから、口を清潔にして装着するのが理想です。

【掲載事例について】
本掲載事例は実際のご利用者様の事例をもとに作成しています。個人情報保護のため、画像・氏名・その他個人を特定できる情報はAI加工および匿名化処理を行っています。