「なぜ、あのご利用者様は起き上がれないのか?」【FRB企画】

起き上がり動作を「層」で分解する思考法と、フローチャート施術プログラム構築の実践完全ガイド

訪問マッサージ 実践スキルアップ研修シリーズ
FRB 動作能力向上プログラム | 第3回

「なぜ、あのご利用者様は起き上がれないのか?」
座位獲得まで——ひとつひとつの姿勢・動作を、
プロとして深く理解する

起き上がり動作を「層」で分解する思考法と、
フローチャート施術プログラム構築の実践完全ガイド
訪問マッサージ師 向け実践研修資料 FRB動作能力向上プログラム 第3回講義サマリー 初級〜中級 対象
◆ 目 次
01この研修で学ぶこと
02フローチャートとは何か?
03動作を「層」で分解する考え方
04起き上がり動作の全体像
05第一層:体幹起こし〜片肘支持
06第一層でよくあるエラーと原因分析
07第二層:肘伸展〜座位完成
08第二層でよくあるエラーと原因分析
09高齢者の特性:拘縮・分離運動・重心制御
10起き上がりアルゴリズム(判断フロー)
11第一層が困難な方へのアプローチ
12第二層が困難な方へのアプローチ
13重心移動トレーニングの実際
14肩甲骨安定性と三頭筋の関係
15まとめ・振り返り・目標再確認シート
CHAPTER 01–04 | 問題定義
「なぜできないのか」を正確に知ることが、プロの出発点
The Starting Point — Understanding the "Why" Behind Movement Difficulty

01|この研修で学ぶこと

訪問マッサージの現場では、毎日さまざまな「できない動作」に直面します。
「起き上がれない」「座れない」「立てない」——しかし、同じ症状でも原因はまったく異なります。

本講義では、「起き上がり動作〜座位」をテーマに、動作を正確に分解して原因を見極め、最も効率的な施術プログラムを組み立てる思考法を習得します。ベテランの「頭の中の思考回路」を可視化・体系化することが、この学習の核心です。

ONE POINT | なぜ思考回路の見える化が必要か?

経験豊富な先生の「判断」や「感覚」は、外からは見えません。その思考をフローチャート化して共有することで、経験の浅いスタッフも同じ質の施術判断ができるようになります。
「真似できるのはやり方だけでなく、思考そのもの」——これがフローチャートの真の目的です。

02|フローチャートとは何か?

フローチャートとは、問題を解決・目標を達成するための手順・思考方法を図式化したものです。施術の場では、ご利用者様の状態を評価し、どのアプローチが適切かを順序立てて判断するためのツールです。

フローチャートのメリット施術現場での活用例
思考の見える化ベテランの判断プロセスを新人も参照できる
ご利用者様との共有「今ここまでできていますね」と一緒に確認しながら進める
課題の明確化「全体的にできない」ではなく「ここまではできる」を見つける
次ステップの設定できない部分を集中的にアプローチできる

03|動作を「層」で分解する考え方

動作(ムーブメント)は、複数の「フェーズ(層)」が連続して組み合わさったものです。「できない」という現象を見たとき、「どのフェーズができないのか」を特定することが最重要です。

❌ NG思考:「起き上がれない」→「全体的に介助する」
✅ OK思考:「第一層まではできる→第二層に問題がある」→「第二層のみ集中的にアプローチする」

タスクが多すぎるとご利用者様もパニックになります。「まずここだけ」と一点集中で取り組むことが、改善スピードを大幅に上げるカギです。

04|起き上がり動作の全体像

今回の講義では「寝返りができる」前提のもと、起き上がり動作を「第一層」と「第二層」の2段階に分けて考えます。

段階動作の内容主なポイント
第一層寝返り → 側臥位 → 体幹を肘で起こして片肘支持(オンエルボー)カウンターウェイト(テコの原理)・体幹筋・肘のポジショニング
第二層オンエルボーから肘を伸展して座位完成(オンハンド)下肢の支持性・三頭筋・肩甲骨安定性・重心移動
CHAPTER 05–09 | 原因(主な原因)と問いかけ
できない理由を「解剖する目」で見極める
Identifying Root Causes — The Clinical Eye That Changes Everything

05|第一層:体幹起こし〜片肘支持

第一層の最大のポイントは「肘で体幹を起こすこと(オンエルボー)」です。
このとき、テコの原理(カウンターウェイト)が働いているかどうかが成否を分けます。

カウンターウェイト(テコの原理)とは?

側臥位から起き上がる際、下肢(足)をベッドから下ろすことで、逆側(上半身)が持ち上がる力が生まれます。これはシーソーと同じ原理です。

ONE POINT | 小柄な高齢者への注意

体格の小さい高齢者は、寝返りがコンパクトになりやすく、下肢が十分に投げ出せないことがあります。そのためカウンターウェイトが機能しにくく、起き上がりが困難になることが多い傾向があります。

06|第一層でよくあるエラーと原因分析

エラーパターン考えられる主な原因着眼点
サイドバーを掴んで引き込むように起き上がる体幹筋の支持性低下体幹筋の活性化が優先課題
オンエルボー状態を維持できずに倒れてしまう体幹支持性の低下 + 肩甲骨の不安定性肩甲骨周囲筋のトレーニングが必要
引っ張ろうとしても体が付いてこない体幹の固定力(支持性)の欠如体幹を固定しながら動かす協調性練習
肘のつく位置が体側に近すぎる or 遠すぎるポジショニングの問題(機能不足より先に確認)肘のポジショニング調整で解決できることも多い
💡 重要な視点:筋力・可動域といった「機能」に目を向ける前に、まず「姿勢・ポジショニング」を確認することで、解決できるケースが多数あります。

オンエルボーの肘ポジショニング3つの要素

  1. 横方向の位置:体軸に対して平行に近い位置に肘をつく
  2. 前後方向の位置:体の重心に対して適切な距離感(前すぎると不安定)
  3. お尻(骨盤)の位置:カウンターウェイトが有効に機能するセッティング

07|第二層:肘伸展〜座位完成(オンハンド)

第二層では、オンエルボー状態から肘を伸ばして完全な座位(オンハンド)まで移行します。この層で注目すべきは、下肢の支持性・三頭筋の筋力・肩甲骨の安定性・重心移動の4要素です。

08|第二層でよくあるエラーと原因分析

エラーパターン主な原因アプローチの方向性
途中(オンハンドの直前)で止まってしまう三頭筋の筋力低下 + 肩甲骨不安定性肩甲骨安定化→三頭筋活性化の順で介入
斜めの姿勢のまま座位が完成しない重心移動能力の低下・体幹支持性の不足骨盤への直接アプローチで重心移動を促通
足がブラブラで使われていない下肢支持性の欠如下肢押し下げ練習で支持力を引き出す
引っ張り型で肘が曲がったまま固まる等尺性収縮による関節自由度の喪失リーチ動作による体の自由度を活かしたアプローチ

09|高齢者の特性:拘縮・分離運動・重心制御の困難

高齢者の動作困難は、筋力だけでなく「体の質的変化」から理解する必要があります。

① 微細な拘縮の積み重ね

大きな拘縮は目に見えますが、高齢者の多くは「些細な拘縮が全身に積み重なった状態」にあります。「全体的に硬い」という状態が、動作のぎこちなさや起き上がり困難につながっています。

② 分離運動の困難(部位を選択的に動かせない)

高齢者では「一部を動かそうとすると全体が動いてしまう」分離運動の低下が見られます。

ONE POINT | 脳梗塞との類似性

「伝えた通りに動けない」のは意欲や理解力の問題ではなく、神経・筋機能の特性です。

③ 重心制御の困難

重心移動の起点は骨盤です。骨盤を直接操作することで、より効率的に重心を誘導できます。

高齢者の特性現れ方介入のポイント
微細な全身拘縮動きがぎこちない・スムーズに起き上がれない拘縮改善を継続的に行う
分離運動の低下骨盤だけ動かすなどの微細な動きができない動かしたい部位を直接誘導・補助する
重心制御困難斜めになった姿勢から座位が完成しない骨盤への直接アプローチで重心移動を促通
CHAPTER 10–14 | 対策
「迷わない」施術プログラムの組み立て方
Building a Clear Action Plan — From Assessment to Targeted Intervention

10|起き上がり動作のアルゴリズム(判断フロー)

以下のフローに沿って評価することで、どの層に課題があるかを素早く特定し、無駄のない施術プログラムを組み立てられます。

▶ 起き上がり動作 判断フローチャート
起き上がり
全体
できる?→ YES
座位評価へ
進む
NO
第一層
(オンエルボー)
できる?→ YES
第二層
(オンハンド)
できる?→ YES
座位完成
NO
NO
第一層
トレーニング
第二層
トレーニング
※ 両層ともできない場合は第一層から。第一層が改善したら第二層へ。

11|第一層が困難な方へのアプローチ

アプローチ① 体幹筋の活性化(複合動作を利用する)

「起き上がり動作そのものの中でトレーニングする」ことが最も効率的です。

  1. 側臥位からオンエルボーの体勢をとらせる(セラピストが体幹を支えながら行う)
  2. 体幹を支持した状態で「上げる→下げる」を繰り返し、自動介助運動を行う
  3. 足をカウンターウェイトとして活用できるよう、セラピストの足で誘導する
  4. 肘をしっかり固定させながら、肩甲骨周囲筋のトレーニングも同時に行う
  5. 「下ろす時もゆっくり」を意識させ、体幹筋の遠心性収縮を促通する
ONE POINT | 「動作練習」ではなく「動作を利用したトレーニング」

腹筋トレーニング+肩甲骨周囲筋トレーニング+動作練習が同時に行える、非常に効率的な手法です。

アプローチ② リーチ動作を使った起き上がり

「引っ張り型」は等尺性収縮で体が固まり、次の動作への移行が困難になります。一方、「リーチ型」は動作性収縮のため体の自由度が保たれ、座位完成までスムーズに移行できます。

方法特徴問題点 / メリット
引っ張り型サイドバーをグッと握って体を引き込む等尺性収縮→体が固まる→次の動作に移行困難
リーチ型(推奨)反対側の手をリーチさせながら動作の流れで起き上がる動作性収縮→体の自由度が保たれる→座位完成がスムーズ
✅ 段階的アプローチ:まず体幹筋の自動介助運動を習得 → 次にリーチ動作での起き上がりを練習(難易度アップ)

12|第二層が困難な方へのアプローチ

アプローチ① 下肢の支持性を引き出す

「足でしっかり押す」動作を練習することで、上肢の伸展を補助する力が生まれます。

  1. セラピストの足や台を「床」に見立てて、足の裏でしっかり押す練習を行う
  2. 「押すタイミング」と「肘を伸ばすタイミング」を同時に合わせる
  3. 初めは膝が伸展してしまうエラーが出やすい→「股関節の伸展で押す」感覚を丁寧に誘導する

アプローチ② 重心移動の練習

斜めになった座位から正面の座位に戻れない方には、骨盤への直接アプローチが効果的です。

13|重心移動トレーニングの実際

重心移動は「目で見るだけ」では確認が困難です。必ず手で骨盤に触れながら、移動が起きているかどうかを確認します。

  1. 座位で骨盤に両手を添える(セラピスト)
  2. 「右(左)のお尻に体重を移してみてください」と声かけ
  3. できない場合はセラピストが骨盤を直接押して重心を誘導する
  4. 移動できたら「できましたね」と即座にフィードバック
  5. 左右を繰り返し、徐々にセラピストの補助量を減らす
ONE POINT | 高齢者が重心移動できない理由

「理解できていない」のではなく、分離運動の困難さが原因です。言葉だけでなく、手で誘導することが必須です。

14|肩甲骨安定性と三頭筋の関係

三頭筋は肩甲骨が安定していないと十分に機能しません。

🔑 関節の法則:「ある関節を動かしたいなら、その一つ中枢の関節が安定していること」
→ 肘の伸展をよくしたいなら、肩甲骨の安定性が先決条件です
問題真の原因正しいアプローチ
三頭筋が使えない→肘が伸びない肩甲骨の不安定性(円背姿勢で外転・前傾・外旋位になりやすい)肩甲骨周囲筋の活性化→安定化を先に行う
オンエルボーから倒れてしまう肩甲骨不安定+体幹支持性低下胸郭を安定させた状態でのトレーニング

「円背を直す」という非現実的なアプローチではなく、その姿勢の中でも肩甲骨周囲筋を活性化させることが現実的で効果的な介入です。

CHAPTER 15 | まとめ
この講義から得た知識を、今日の現場へ
Key Takeaways & Review — Applying Your Learning to Tomorrow's Practice
📌 本講義の重要ポイント(まとめ)
  • 動作は「層(フェーズ)」に分けて評価する。「全体的にできない」という見方を卒業する
  • 第一層(オンエルボー)のポイントはカウンターウェイト・体幹筋・肘のポジショニング
  • 第二層(オンハンド)のポイントは下肢支持性・三頭筋・肩甲骨安定性・重心移動
  • 筋力・可動域より先にポジショニングを確認する。位置を変えるだけで解決するケースが多い
  • 高齢者の動作困難には拘縮・分離運動困難・重心制御困難という質的な問題が関係している
  • トレーニングは「動作練習」ではなく「動作を利用した複合トレーニング」が効率的
  • 引っ張り型よりリーチ型の起き上がりの方が体の自由度が保たれる
  • 肘が伸びない問題の多くは三頭筋ではなく肩甲骨の安定性が原因
  • 重心移動は骨盤への直接アプローチが最も効率的
  • フローチャートは思考回路の見える化であり、チーム全体のスキルを底上げするツール
📝 学びの振り返りメモ ——今日の気づきを書き留めましょう
  • 今日、一番「なるほど!」と思った内容:
  • 現場で試してみたいこと:
  • まだわからなかったこと・確認したいこと:
  • 担当ご利用者様で当てはまる方(状態・課題):
  • 次回講義までに実践すること:

チェック練習表

ご利用者様への実践後、以下の項目を自己評価してみましょう。

確認項目実践日できた要練習
起き上がりを第一層・第二層に分けて観察できた 
エラーが第一層か第二層かを特定できた 
肘のポジショニングを確認・調整できた 
カウンターウェイトが機能しているか評価できた 
体幹支持性のアプローチを実践できた 
リーチ型の起き上がりを誘導できた 
肩甲骨安定化→三頭筋活性化の順でアプローチできた 
骨盤への直接アプローチで重心移動を誘導できた 
🎯 目標再確認シート
私がこの研修を受けようと思った理由・背景
 
1ヶ月後に実現したい変化(ご利用者様への具体的な影響)
 
3ヶ月後の目標(自分自身の成長)
 
次の研修までに必ず実践すること(具体的に1つ)
 

💬 参加者からの声

A
動作の「層」で分けて考えるという視点が目からウロコでした。今まで「全体的にできない」と漠然と捉えていたことが、「第一層まではできているから第二層を集中的に練習しよう」という具体的な方針に変わりました。現場での見立てが180度変わった気がします。
受講者 A さん(40代・訪問マッサージ師)
B
拘縮の影響がこんなにも動作全体に関わっているとは知りませんでした。全身の微細な拘縮が積み重なっていることを意識すると、施術の優先順位が変わりますね。訪問マッサージならではの視点だと実感しました。
受講者 B さん(30代・訪問マッサージ師)
C
リーチ型と引っ張り型の違いがとてもわかりやすかったです。自分が普段「引っ張り型で介助していたな」と気づきました。動作後にご利用者様が「固まる」感じが、等尺性収縮のせいだったと今日初めて理解できました。
受講者 C さん(40代・訪問マッサージ師)
D
カウンターウェイトの話が印象的でした。足を下ろすだけで上半身が上がりやすくなる——シーソーの原理なのに、なぜかこれを意識できていませんでした。今日からご利用者様の「足の位置」を真っ先に確認するようにします。
受講者 D さん(50代・訪問マッサージ師)
E
フローチャートをご利用者様と一緒に確認しながら進めるという発想が新鮮でした。むしろ「一緒に確認しましょう」という姿勢が信頼につながると知り、安心しました。早速プリントを作って活用してみます。
受講者 E さん(40代・訪問マッサージ師)
◆ 運営スタッフより | 今後の期待と御礼
本日は第3回「座位獲得〜起き上がり動作の徹底理解」にご参加いただき、誠にありがとうございました。

今回の講義で、皆さんが「動作を層で分解する」という視点を体得されたことは、訪問マッサージの質を大きく変える転換点になると確信しています。

現場での実践を重ね、次回の講義でぜひ「やってみて気づいたこと」を共有してください。皆さん一人ひとりの学びと成長が、ご利用者様の笑顔につながっています。
— 訪問マッサージ実践スキルアップ研修 運営スタッフ一同
施術・セミナー動画観覧ご希望の方へ

ALSOKケアプラスでは、セミナー受講者向けの施術プログラムを中心に、実践的な学びを提供しています。
WEBセミナーの参加施術・セミナー動画の観覧は、弊社とご契約いただいた方限定となります。

● 新たに契約をご希望の方

ALSOKケアプラスのセミナーは無料で受講可能です。
まずは下記のバナーからご確認ください。

0円で受けられるWebセミナー案内
● ご契約者様

過去のセミナー動画や資料は、配信メールに記載の「WEBセミナーお申込みフォーム」から閲覧登録が可能です。

最後までご観覧いただき、ありがとうございました。

ALSOKケアプラスのセミナー活動が、皆さまの学びと現場の支援に少しでもお役立ていただけましたら幸いです。
今後も定期的に最新のセミナーレポートを公開してまいります。