知らないと怖い!パーキンソン病と嚥下障害【S-pro】
〜 食べる力を守る!姿勢・呼吸・嚥下トレーニング完全攻略 〜

知らないと怖い!
パーキンソン病と嚥下障害
日々、高齢のご利用者様と向き合うなかで、「最近、食が細くなってきた」「むせることが増えた」「声がかすれている」そんな変化に気づいたことはありませんか?
これらは、「嚥下障害(えんげしょうがい)」の初期サインである可能性があります。特に、パーキンソン病をお持ちの方は、病気の進行とともにほぼ必ずといってよいほど嚥下障害が現れます。そして、その死亡原因の第1位は「肺炎(46%)」です。
- 第1位 肺炎(46%)← 誤嚥性肺炎が主因
- 第2位 窒息(8%)
- 第3位 栄養障害(7%)
※ 日本人全体の死因1位はがん・心不全・脳血管障害であり、食に関連する死因が突出しているのがPDの特徴です。
この事実が意味することは、「施術でお体に触れる私たちには、嚥下障害を予防・改善するアプローチができる」ということです。
本テキストでは、言語聴覚士(ST)の専門知識をもとに、嚥下障害の仕組みからパーキンソン病特有の問題、そして実践的なケア方法までを体系的に学んでいきます。
◆ 摂食嚥下障害とは?
摂食嚥下障害とは、食べ物や飲み物を口から安全に取り込んで胃まで送り込む「嚥下(えんげ)」の一連の機能が、何らかの原因で障害された状態のことをいいます。
「食べる」という行為は、実は非常に精密な神経・筋肉の協調によって成り立っています。これを「摂食嚥下の5段階」と呼びます。
- ①先行期(認知期):食べ物を見て、口に運ぶ準備をする段階
- ②準備期(咀嚼期):口の中で食べ物をかみ砕き、飲み込みやすくまとめる段階
- ③口腔期:舌を使って食べ物を喉の奥へ送り込む段階
- ④咽頭期:喉を通過するとき、気管に蓋をして食道へ送り込む段階(最も重要!)
- ⑤食道期:食道から胃へ食べ物が送られる段階
★ パーキンソン病では特に③〜④の段階が障害されやすい
◆ のどの構造 ― 食道と気管が交差する危険地帯
喉(咽頭)には、「食べ物の通り道(食道)」と「空気の通り道(気管)」の2本の管が存在します。正常な嚥下では、飲み込む瞬間に「喉頭蓋(こうとうがい)」という蓋が反転して気管をふさぎ、食べ物が食道へ安全に送られます。
パーキンソン病のご利用者様は、この「喉仏を上げる力」が低下し、喉頭蓋の反転が遅れるため、食べ物が気管に入りやすくなってしまうのです。
◆ 誤嚥(ごえん)とは
「誤嚥」とは、本来食道に入るべき食べ物や飲み物、または唾液が、誤って気管の中に入ってしまうことをいいます。
- 喉仏がしっかり上がる
- 喉頭蓋が確実に反転
- 食べ物が食道へ正確に入る
- むせなし、残留なし
- 喉仏の動きが弱い・遅い
- 喉頭蓋の反転が不完全
- 食べ物が気管へ流れ込む
- むせ、湿性嗄声が出る
◆ 誤嚥したときに出るサイン
- むせ(咳嗽反射):気管に食べ物が入ると、身体が防衛反応として激しくせきをする
- 湿性嗄声:食後などに声がゴロゴロとかすれる(喉に食べ物・分泌物が残留している証拠)
- 食事に時間がかかる:飲み込みが遅くなっている
- 声が小さくなってきた:声帯がうまく閉まらなくなってきたサイン ← 重要な早期サイン!
- 発熱が続く:誤嚥性肺炎の可能性
◆ 不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)とは
「不顕性誤嚥」とは、食べ物や唾液が気管に入っても、むせ(咳嗽反射)が起こらない誤嚥のことをいいます。「silent aspiration(サイレント・アスピレーション)」とも呼ばれます。
パーキンソン病では咽頭の感覚が鈍くなるため、気管に異物が入っても防御反射が起こらなくなってしまうのです。
- パーキンソン病の方(咽頭感覚の低下・咳嗽力の低下)
- 脳卒中後の方
- 認知症が進んだ方
- 胃食道逆流症のある方(夜間に逆流物を誤嚥)
- 高齢で全身機能が低下した方
☆ 「昨日まで普通にご飯を食べていた」のに肺炎で入院...というケースの多くは不顕性誤嚥が原因です!施術の中で、声のかすれ・食事時間の延長・体重減少などのサインに気づいたら、「不顕性誤嚥が起きているかもしれない」という視点を持つことが、プロとして重要なアセスメントです。
◆ 原因①:病気によるもの
- 神経疾患:パーキンソン病、脳卒中(脳梗塞・脳出血)、ALS、多発性硬化症
- 神経・筋疾患:反回神経麻痺、重症筋無力症、多発性筋炎
- 頭頸部がん:舌がん、咽頭がん、喉頭がん
- 認知症:食べ方がわからなくなる「先行期障害」
- その他:食道がん、胃食道逆流症など
★ 本テキストのメインテーマ「パーキンソン病」はこの中でも特に嚥下への影響が複雑です。
◆ 原因②:加齢によるもの(サルコペニア嚥下障害)
加齢によって全身の筋肉が減少する「サルコペニア」は、嚥下に使う筋肉にも同様に起こります。
- 舌の筋力低下(舌圧の低下)
- 咽頭収縮力の低下
- 喉頭挙上力の低下
- 咳嗽力(排出力)の低下
- 口腔内感覚の鈍化
- よく寝る(睡眠による回復)
- よく食べる(タンパク質の確保)
- よく運動する(廃用予防)
★ これがベースにあっての嚥下訓練
◆ パーキンソン病(PD)とは
パーキンソン病は、脳内の神経伝達物質「ドーパミン」が不足することで発症する、進行性の神経変性疾患です。50〜70歳代に多く発症し、60歳以上では約100人に1人という決して珍しくない病気です。
- 一般的な発症年齢:50〜70歳(加齢とともに発症頻度増加)
- 日本の患者数:約15〜18万人(人口1000人に1人)
- 60歳以上では:約100人に1人
- 世界の患者数:2015年約690万人 → 2040年には約1,420万人へ増加予測(PDパンデミック)
- 遺伝性は約5%、ほとんどは孤発性(偶発的に起こる)
◆ 四大徴候(運動症状)
何もしていない安静時に手・足が震える。動作中は止まることが多い。片側から始まる。
筋肉が固くなりスムーズに動きにくい。関節を動かすと鉛管のような抵抗を感じる(鉛管様固縮)。顔の筋肉がこわばり無表情になる(仮面様顔貌)。
動き出しに時間がかかり、動作が遅くなる。歩行時に足が出にくい(すくみ足)。声が小さくなる。文字が小さくなる(小字症)。
バランスが取りにくく転倒しやすい。方向転換が困難。首が下がる(頸部下垂)。体が斜めに傾く(ピサ徴候)。骨折リスクが高まる。
💡 嚥下障害は四大徴候には含まれていませんが、実際にはほぼ全員に起こる重要な症状です。
◆ ホーン・ヤール重症度分類
パーキンソン病の重症度は「ヤール分類」で1〜5の段階に分けられます。ご利用者様が今どのステージにいるかを把握することが、適切なケアの第一歩です。
| ステージ | 主な状態 | アプローチポイント |
|---|---|---|
| Ⅰ度 | 片側のみの症状。日常生活への支障なし。 | 運動機能中心のリハビリ。良い姿勢の習慣づけ。 |
| Ⅱ度 | 両側に症状あるが、バランスはまだ保てる。 | 姿勢保持の意識付け。呼吸機能の維持を始める。 |
| Ⅲ度 | バランス障害が出現。ADLは自立だが部分介助が必要になる段階。 | 姿勢調整・呼吸・嚥下への意識的アプローチが重要になる。 |
| Ⅳ度 | 重篤な障害。歩行可能だが日常生活に介助要。 | 生活の質を守る支援。嚥下・呼吸への直接アプローチ。 |
| Ⅴ度 | 車椅子または寝たきり。全介助。 | 生命維持、褥瘡予防、拘縮予防。姿勢・呼吸ケアを継続。 |
- 約2年ごとにステージが上がるとされています
- 10年でステージ3、約14〜15年でステージ5に到達することが多い
- ご利用者様のパーキンソン病(PD)歴(何年前から?)を確認し、現在のステージを常に意識しましょう
◆ パーキンソン病(PD)の嚥下障害:6つの特徴
無動・筋強剛により、咀嚼・嚥下の動きが緩慢になる。口の中に食べ物が残ったままになりやすい。
感覚の低下により本人が「飲み込みにくい」と気づいていない。「昨日まで普通に食べていた」が突然肺炎になるのはこのため。
咽頭感覚の低下により、食べ物が気管に入ってもむせが出ない。誤嚥していることが外からわかりにくい。
円背・頸部後屈により嚥下に使う筋肉が伸びきってしまい、うまく収縮できない。
L-ドパやその他の薬が歩行や手の震えには有効でも、嚥下障害には劇的な改善効果が得られにくい。
一般的な嚥下リハビリの効果が出にくい。そのため姿勢調整と呼吸アプローチが中心的な介入法となる。
「食べたくない」「飲み込みにくい」「薬も訓練も効かない」そんなパーキンソン病の嚥下障害に対して、最も効果的な2つのアプローチがあります。
これは私たちマッサージ師・リハビリ職が直接できることです!
パーキンソン病のご利用者様の5割以上が体重減少を経験すると言われています。
【消費カロリーが増える要因】
- 筋強剛:常に筋肉が緊張状態でエネルギー消費が増加
- ジスキネジア:不随意運動による消費増加
【摂取カロリーが減る要因】
- 便秘:胃腸の動きが悪く、食欲が落ちる
- 消化管運動低下:常にお腹がいっぱいな感覚
- 味覚異常・食事性低血圧・薬の副作用など
- 嚥下障害:飲み込みにくいため食事量が減る
施術・ケアの中で体重の変化や食欲の様子を定期的に確認し、チームで情報を共有することが大切です。
◆ なぜ姿勢が嚥下に影響するのか?
円背になると骨盤が後傾し、胸郭が圧迫されます。すると呼吸が苦しくなり、首を上に上げようとします(頸部後屈)。しかし、この頸部後屈の状態は嚥下に最も悪い姿勢なのです。
- ① 舌骨上筋群(喉ぼとけを上げる筋肉)が引き伸ばされてしまい、うまく収縮できない
- ② 喉頭蓋の反転が不完全になり、気管への蓋が閉まりにくくなる
- ③ 気道が大きく開いた状態になり、食べ物が気管に入りやすくなる
- ④ 嚥下に必要な圧力がかかりにくくなる
💡 実際にやってみましょう:顎を引いた姿勢と、顔を上に向けた姿勢それぞれで唾を飲み込んでみてください。顔を上に向けると、唾が飲み込みにくいことが体験できるはずです!
◆ 食事時の姿勢チェックリスト
- 車椅子・椅子に深く座り、骨盤をしっかり立てる(前傾位)
- 足の裏を床にしっかりつける(浮いている場合は台を置く)
- 少し前傾みになる姿勢(約30度)が飲み込みやすい
- 顎はやや引く(後屈位は厳禁!)
- 枕・タオル・クッションを活用して姿勢を固定する
- 腕の下にクッションを入れると頸部が楽になる
◆ 姿勢悪化→呼吸低下→嚥下障害の悪循環
◆ 呼吸リハビリの実践
- シルベスター法:仰臥位で両腕を上に上げて下ろす。息吸いながら上げ、吐きながら下ろす
- 体軸捻転(体をひねる運動):胸郭の可動域維持に効果的
- 肋間筋マッサージ:肋骨と肋骨の間に指を置き、優しく揺らす
- 大胸筋ストレッチ:背中に丸めたバスタオルを縦に入れて動かす
💡 「大きな声が出せる = 大きな息がある = 肺活量がある」の証拠です。声が小さくなってきたら呼吸機能が低下しているサインです!
パーキンソン病では、嚥下障害が起こる前に声が小さくなることが多いです。声のかすれ・声の小ささは、早期の嚥下障害サインとして重要です。
目的:声帯をしっかり閉じる練習。しゃがれ声の改善・咳嗽力のアップ
- ① 両手のひらを合わせてしっかり押し合う
- ② 力を入れながら「えい!」「えっ!」と力強く発声する
- ③ これを10回程度繰り返す
バリエーション:壁プッシュ、椅子の座面を引き上げる「プリング法」
ポイント:楽しく・笑いながら行うと自然と声帯が閉まりやすい!「えいえい!」と言いながら行うとより効果的です。
目的:呼気力(吐く力)を高めて排痰・咳嗽力を向上させる
- 方法①:ペットボトルブローイング(ストローを使ってブクブク)
- 方法②:吹き戻し・笛を吹く
- 方法③:ティッシュ吹き(息を吹いて揺らす)
ポイント:風船・紙風船・吹き戻しなどを使うと楽しく継続できる!
パーキンソン病のご利用者様が最近むせることが多くなっていたのですが、今日の講義で「不顕性誤嚥」という概念を知り、もっと注意深く観察しなければと目が覚めました。姿勢調整だけでむせが止まるとは驚きです!早速、次回の施術から意識して取り組みます。
「声が小さくなってきたら嚥下障害のサイン」という話が衝撃でした。担当しているご利用者様の中にも声が細くなってきた方がおり、改めて日々の観察の重要性を痛感しました。プッシング法も実際に試してみたところ、喉への力のかかり方がよくわかりました。現場でさっそく活用してみます。
今まで嚥下障害はSTさんやリハビリ職の専門領域だと思っていましたが、姿勢調整や呼吸ケアは私たちにもできることだとわかりました。実践的な内容で、本当に参加して良かったです。これを機にもっと勉強を続けたいと思います。
ヤール分類によってアプローチの優先順位が変わるという視点が新鮮でした。漫然とリハビリをするのではなく、今の病期を正確に把握した上で戦略的にケアを組み立てることの大切さを学びました。嚥下と姿勢・呼吸がここまで密接につながっているとは知りませんでした。
入職してまだ日が浅いのですが、今回のセミナーで嚥下障害の基礎から実践的なアプローチまでを一気に学ぶことができました。特に「むせないから安全ではない」という不顕性誤嚥の怖さは、現場で必ず役立てたいと思います。先輩方の話も参考になり、とても充実した時間でした。
あいうべ体操やシルベスター法を実際に体験しながら学べたのがとてもよかったです。「ただ話を聞くだけ」ではなく、体で覚えることができました。長年現場に携わってきた中でも初めて知る内容が多く、改めて継続的な学びの大切さを実感しました。次回のセミナーも必ず参加します。
呼吸と嚥下がこれほど深くつながっているとは思っていませんでした。胸郭の柔軟性を保つことが誤嚥予防につながるという考え方は、マッサージ師として非常に重要な視点だと感じました。今後の施術に姿勢・呼吸ケアを積極的に組み込んでいきたいと思います。
パーキンソン病の死亡原因の第1位が肺炎(46%)という数字には本当に驚きました。長年施術に携わってきましたが、嚥下障害への意識が低かったと反省しています。食事姿勢の確認や声の変化への気づきを日常ケアに組み込むことで、ご利用者様の命を守る関わりができると感じました。
食事姿勢のチェックリストが特に実用的でした。骨盤を立てること、足底をしっかりつけること、顎を引くことなど、今すぐできる具体的な対応を知ることができました。チームのスタッフとも共有して、施設全体で取り組んでいきたいと思います。
ブローイング法やプッシング法などの発声・呼吸訓練が、楽しみながらできる方法として紹介されていたのがとてもよかったです。吹き戻しや風船を使うアイデアはすぐに試せそうです。ご利用者様が笑顔で取り組める訓練を提供できるよう工夫していきたいと思います。
皆様、本日も熱心なご参加、
誠にありがとうございました。
今回のセミナー「STに学ぶ 病態に対する誤嚥対策完全攻略 パーキンソン病編」では、言語聴覚士の専門的な知識をもとに、嚥下障害という非常に重要なテーマを、皆様と一緒に深く学ぶことができました。
「姿勢を整えるだけで嚥下が改善する」「呼吸と嚥下はつながっている」という内容は、日々の施術にすぐ活かせる実践的な知識です。皆様が今日学んだことを1つでも現場に持ち帰り、ご利用者様の「食べる力」を守るケアに役立てていただければ、これ以上うれしいことはありません。
皆様の日々の真摯なお仕事が、たくさんの高齢者の方々の笑顔と健康を支えています。これからも一緒に学び、成長していきましょう。
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