【ケーススタディー C026】腹筋運動をやめる決断 ― パーキンソン症状の進行に合わせて、プランを引き算した理由
実際の訪問マッサージ症例をもとに、施術師が現場で何を見て、何に迷い、どう判断したかを記録したケーススタディーです。
腹筋運動をやめる決断 ― パーキンソン症状の進行に合わせて、プランを引き算した理由
リハビリの仕事は、「何を足すか」ばかりが注目されがちです。ですが現場では、「何をやめるか」を決めることの方が、ずっと難しい判断を迫られることがあります。 今日は、パーキンソン病の診断を受けた在宅の方を担当した施術師の記録をもとに、あるメニューを途中でやめた理由をお伝えします。
ご利用者情報
- 腰椎圧迫骨折
- パーキンソン病
三女様と同居し、長女様・次女様が日替わりで来訪しながら、ご家族で日常生活を支えていらっしゃいます。
きっかけ:転倒から始まり、進行していったパーキンソン症状
Sさん(80代・女性)は、2021年頃にご自宅の庭先で転倒し、腰椎圧迫骨折の診断を受けました。2023年8月からサービスを開始し、大きな怪我はないまま経過していましたが、年々脚の運びが悪くなり、ご家族の介助負担も少しずつ増えていきました。そして2026年4月、パーキンソン病の診断を受けることになりました。
ご家族様(長女様・次女様・三女様):日常生活が心配。年々脚の運びが悪くなり、介助の負担が増えている。このまま寝たきりにはなってほしくない。
この事例の核心:なぜ、腹筋運動をやめる判断をしたのか
サービス開始当初、目標のひとつに起き上がり動作の向上がありました。そのため、体幹部のリハビリとして腹筋運動を取り入れていました。ここまでは、ごく標準的な組み立てだったと思います。
ところが経過を重ねる中で、パーキンソン症状が増大していると感じる場面が増えてきました。歩行の低下、特にすくみ足が顕著になっていったのです。ここで迷いました。起き上がり動作のために始めた腹筋運動を、このまま続けるべきか。それとも、今まさに悪化している歩行の方に、限られた時間と体力を寄せるべきか。
最終的に、腹筋運動は中止するという判断をしました。その分の負荷を、両下肢の出力を上げるキッキングやヒップリフトなど、伸筋群を優位に使う運動に寄せることにしたのです。
「色々やってみることも大事」だとは思いますが、今回のケースでは、続けることよりも、やめることの見極めの方が結果につながりました。
実際に組み立てた流れは、以下の通りです。
チームで信頼が生まれた瞬間
在宅での訪問は、長女様・次女様・三女様が日替わりで支えるご家族の輪の中に、こちらが入らせていただく形になります。日々の様子をご家族から伺いながら、その日の負荷を微調整することも少なくありません。
脚が上がるようになって、本人も喜んでいます。パーキンソン病が進むと困るので、引き続きお願いします。(ご本人様・ご家族様より)
「進行すると困る」というご家族の率直な言葉には、これからも続けてほしいという信頼と、進行への不安の両方が込められていると感じています。
数字で見る変化
両下肢の動きが向上し、脚が上がるようになったことも、記録の中で繰り返し触れられている変化です。現在も手引き歩行ではありますが、立ち上がりから立位保持、歩行まで全体的な底上げが見られています。
「行わない」判断も、また学びになる
両下肢の出力を上げ、体幹部を含めて伸筋群が優位に働くようにリハビリを組み直したことが、今回の変化につながったと考えています。ただ、それ以上に残っているのは、「色々やってみることも大事だが、最適な選択をする、行わないことを見極める」という感覚です。
パーキンソン症状は、これからも進行する可能性があります。次にまた何かを変えるべき時が来たとき、今度は何を残し、何をやめるべきか。その判断を、また現場で一つずつ決めていくことになると思います。
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